慎ましやか

「なまえ細いなー」
「そうですか?」
「もっと食べて肉を付けた方が良いぞ」
「男の人って細い方が好きなんじゃないんですか?」
「いや、俺としてはもう少し柔らかくても……」
「あはは、やっだーセクハラで訴えますよー?」
「……悪かった」

そう言いながらもべたべたと腰を触るシン様に対して文句も言わずに酒を飲む。
ちなみに王は飲酒済み、泥酔済みである。
何だこの状況、と思わなくもない。
正直くすぐったいし周りの視線も痛いので、そっろそろ勘弁願いたい。
が、(今がこんなんでも一応)王だから、下手に殴れる訳も無く。
それに加えて、もう慣れてしまったと言う気持ちも有るので、放って置いている。
何だかこの人の傍で仕えるようになってから大層スルースキルが高くなってしまった様な気がする。

「……ちょっと」
「ん〜?」
「服の中に手を入れないで下さい。流石に怒ります」
「柔らかいな〜」
「聞け」

流石に其れは、と手をはたく。
それでも腹の辺りに手を這わされて、思わず固まった。
ちょっと何この人マジで酔ってる?
今までこういう扱いされた事無いから困惑してしまう。
そうこうしている内にも、段々手が上がって来て――、

「ちょ、ま、」
「シン!何してるんですか!!」

ガツン!
鈍い音と共に飛ばされた怒号に、思わず目を丸くする。
シン様の後ろにジャーファルさんが立っていて、その手には水を入れる様の瓶――え、それで殴ったのこの人?!

「――っ!!」

ほら流石の王様も痛み悶えてるよ!!
横で呻く王と、後ろで瓶を携えて仁王立ちの恋人兼上司――え、どうすればいいのこれ。
もう収集の付け方が解らない!

「――なまえ」
「え、」
「おいで」

何だろう、無表情が、とても怖いです。
それでもさしのばされた手に自分のそれを重ねれば、ぐいっと引かれる。
すこしよたりながらも立たされて、おもむろに歩きだした。
て言うかシン様放置って!
一応あの人王様なんですけど!?
良いの?!

「ジャー、」
「少し黙っててください」

はい黙ります。
何でこの人別に怒ってるわけじゃ無くただただ無表情なのにこんなに怖いの……。
ああ、無表情だからか……。
私は言われた通りに口を噤む。
勿論ジャーファルさんも何も言わない。
そうやって連れられて来たのは、ジャーファルさんの私室で、

「え、わ!」

部屋に着くなり、無言で寝台に放り投げられた。
ええマジでこの人放り投げましたよ!
別に痛くないですけど、どうなのこれ……。

「なん、」
「何処、触られましたか?」

起き上がろうとして、おさえこまれる。
男女の差は勿論、八人将の一人である彼に力で勝てる筈何て無くて、そのまま寝台に深く沈む。
そして何か言う間も無く、服に手を入れられて、肌を撫でられた。
ゆっくりと、先程のシン様の手よりも冷たい手が、柔らかく欲を孕んで動く。
その手の冷たさとか、動きとかに思わずびくりと身を揺らした。

「っ、ジャーファルさ、ん」
「何で大人しく触られてるんですか」

そう言いながらも、わき腹からつーっと指が上に動かされる。
正直くすぐったいやら恥ずかしいやら勘弁してほしいやらでいっぱいいっぱいだ。

「だ、って、……」
「殴ってでも止めてやればいいんですよ」
「いや、相手王……」
「酔っ払いのやる事ですから、いちいち相手してたらキリがありませんよ」
「――善処します」

何だろう、本当に何だろう。
何でジャーファルさんはこんなに不機嫌なのだろう。
だって、王がああやってするのは何時もの事なのに。
見上げれば、少し眉を下げて不安げな瞳と視線が絡まった。

「なまえは、」
「はい」
「誰の恋人ですか?」
「……あ」

ああ、なるほど。
ジャーファルさんの意図が解って、思わずくすくす笑ってしまう。

「……何で笑うんですか」
「だって、やきもちでしょ?」

かわいい、と笑って、手を伸ばして頬をなでる。

「心配しなくても、私はジャーファルさんの恋人ですし、それ以外になるつもりはありませんよ」

ほんのり頬を染めて、眉を下げる可愛い人。

「じゃあ何で振りはらわないんですか……」
「だって、王様ですしぶんなぐれないですよ……」
「……」
「だから、」

今度も、助けに来てくださいね?
そう言って首に腕をまわして抱き寄せれば、控え目に聞こえた返事に、それだけで舞い上がってしまうのだ。
だってだって、愛されていると実感できるから。
ふっと、自身の上に乗っているジャーファルさんの体があまり重くない事に気が付いた。
体重を掛けない様に気を使っているのだろうか。
首に回していた腕をジャーファルさんの腰まで滑らせる。

「……えい」
「ちょ、何するんですか!」
「うっわジャーファルさんほっそ!なにこれほっそ!!」
「止めてください!」

がしっと掴めば、そこは案の定細くて……え、私と大して変わらないんじゃ、これ……。
少し愕然としながら、悔しさのあまりそのまま擽ってやった。

慎ましいばかりでは終わらない。
(「なまえ、止め……!」「(……何か襲ってる気分になってきた)」)

4100ヒット344様キリリクで「シンにセクハラされつつ無抵抗ヒロインを見てイラっとしてセクハラしようとするがヒロインに逆セクハラなジャーファル」でしたー!
何か最初と最後で若干ヒロイン性格違う……ような、気が……←
いつもより全体的にヒロインのテンションが高くて、書いてて楽しかったです!
が、セクハラ具合はこれでいいのだろうか……?

344様、リクエストありがとうございました!
こんなの違う!等ありましたら遠慮なくどうぞ!

お持ち帰り等はリクエスト下さいました344様のみ可です!
20110916