雛鳥の刷り込み

女三人寄れば姦しいとい言うが、正にその状態なのだろう。

「でね、その人が〜」

ヤムライハ、ピスティ、なまえの三人が酒を片手に顔を寄せて、きゃっきゃと楽しそうに話している。
頬を高揚させながらそれぞれの話に真剣に耳を傾けるその様子に、周りには花が咲いた様な雰囲気になる。
偶に声が少しだけ大きくなって、楽しげに笑う。
なまえは主に聞き役ではあるが、それでも楽しそうに相槌を打ちながらにこにこと笑っている。
その様子を少し離れた席でシンドバッドか真剣に見ていた。

「……シン、何見てるんですか……」
「ジャーファル、お前は気にならないのか」
「何がですか?」
「なまえが誰かと付き合ってるとか、誰を好きとか」

真剣な表情のまま言ったシンドバッドに、ジャーファルは呆れた視線を向ける。

「……野暮ですよ」
「それは解ってるんだがな……こう、悪い奴に騙されてないかとか……」
「そんなに頭の悪い子じゃありません」

溜息を吐いて、自身の食事に取りかかる。
シンドバッドもそれは解っているのだが、どうにも気になってしまうのだ。
親心である。それに、

「何だかんだ言いつつ、ジャーファルも気にしてるだろ」
「……」
「さっきからそわそわしてる」
「してません」

そう言いながらも少し落ち着きなく杯を弄るジャーファルに、シンドバッドはニヤニヤと笑う。
それを苛ただしげに見ながら杯に口を付けた。
と、そこでピスティの高い声が耳に入る。

「なまえたんは好きな人いないの〜?」

ぴくり、と思わず手が止まる。
無意識で耳に神経が集まって、声を一つ一つ拾ってしまう。

「私?」
「そうそ〜。ね、ね、何か無いの?」
「んん〜……」

思わず視線もそちらに向けてしまい、少し困った様子に眉を下げて頬を赤らめているなまえの姿が目に入る。
まるで恥ずかしがって言うのを躊躇っている様に見えた。

「……なあ、ジャーファル、どうしよう」
「何ですか」
「今、無性に泣きたい」

子供が自分の元から離れていく様な感覚である。
顔を覆って、隣にいるジャーファルの肩に手を置けば、ジャーファルがそれに「やめてください」と溜息を吐く。

「王がこんな所で泣かないで下さい」「ジャーファル冷たいな……」
「大体泣く事無いじゃないですか。――なまえも成長したんですよ」

何時までも自分たちが知ってる様な少女のままでは無いのだと言えば、シンドバッドは少し寂しそうに笑った。
確かに、今まで娘の様に可愛がってきた彼女が、誰かを好きになったり、誰かと恋をしたりしているというのは何だか寂しい。
が、それを喜ばない訳にはいかないのだ。

「なまえたんの事気になってる人、結構いるらしいよ〜」

そんな事を話している間にも、向こうではどんどん話が進んでいく。
少し興奮気味なのか、酔いも手伝って少しだけピスティとヤムライハの声が大きくなっていて、少し気にするだけで話が耳に入って来た。

「確か、文官の……」
「ああ、あの人?髪が少し長くて、後ろで結んでる……」
「そうそう!あの人なまえたんの事気になるみたいだよ〜」
「え〜……」
「あんな風な人いやなの?良いと思うんだけど……優しいし顔も良いし、侍女の間でも評判良いのよ」
「何かああいうキラキラした人、嫌いじゃないけど苦手なんだよね……」
「王サマとか?」
「好きだけど、恋人には遠慮したい」

私何か相手にされないだろうけど、とくすくす笑うなまえに、シンドバッドは机に突っ伏してしまった。
別にそういう目線で見ていた訳ではないが、それでも何だかショックである。

「シン、酔ったんなら部屋に、」
「いや、いい……大丈夫だ」
「……何泣いてるんですか……」

じわりと滲んだ視界に、呆れた声が飛ぶ。
目元を拭って杯を煽れば、水を貰ってきます、と言いながらジャーファルが立ち上がった。
それを見送りながら、なまえ達の方に視線を向ける。

「うう〜ん……とりあえず今は好きな人いない感じ?」
「いないかなぁ」
「今までは?どんな人を好きになったとか、あ、タイプとか」

ヤムライハの問いに、首を傾げて考えるなまえに、思わず涙何てひっこんでしまって、耳をそばだてる。

「――優しい人?」
「漠然としすぎよ……」
「もっと他には?」
「ええ〜そうだなぁ……、普段甘やかしてくれても、大事な所ではちゃんと厳しくしてくれる人かな。別に何をして欲しい訳じゃないけど、ちゃんと話を聞いてくれて、笑ってくれたりしてくれると嬉しいなぁ」
「年上?」
「どっちでも良いかな」
「でもなまえたん何気に末っ子体質だよね!」
「私一応年上なんだけど……?」

少し不機嫌そうに言うなまえに、二人がくすくすと笑う。
その反応に更に頬を膨らまして、もう寝る!とそっぽを向いて立ちあがった。
それを諌めながら、更に笑っている。
その様子を見ながら、ふと先程のなまえの好みを思い出す。
丁度水を入れた壺を持ってきたジャーファルを見て、

「……ああ、」
「何ですか?」
「いや、何でも無い」

幼さの刷り込み。
(まるで雛鳥の様だ、と内心で笑った。)


4000キリリクサツキ様「マギヒロインでヤムライハとピスティでガールズトーク(それを見守る保護者)でほのぼの」でした!
視点を保護者に置いて書いてみましたが、どうでしょうか……。
解りずらい所などあったらすみません;
というか、これはほのぼの……?夢主の好み=ジャーファル、みたいな感じでした。
この時点ではジャーファルが好き、と言う訳ではなく、一番ジャーファルが近い位置にいたから自然と基準になっているんです。
シンは……まあ普段は良いですが、お酒の面などから反面教師ですね(笑)

サツキ様、リクエストありがとうございました!
もしこんなの違う!等ありましたら遠慮なくどうぞ!

リクエストいただきましたサツキ様のみお持ち帰り可です!
20110915