日常茶飯事

「なまえなまえ」
「……?」

偶々執務室の前を通った時、扉から顔を出したシンドバッドにちょいちょいと手招きされて、なまえは首を傾げた。
今日はもう執務も全部終わって、後は寝るだけなのである。
何かあっただろうか、と考えながらも室に入ると、目の前に衣が広げられた。
鮮やかな空色をした其れは、どうやら服のようだ。

「何……?」

いきなり何だろう、と問えば、シンドバッドはにっこりと笑って、

「プレゼントだ」
「何でまた……」
「以前この布を見つけた時に、なまえに良く似合うと思ってな!」

着心地も中々だと思うぞ、と渡されたそれを受け取り広げる。
さらりとしたさわり心地が気持ちのいい布で、確かに着心地はよさそうである。
色もなまえの好きな部類に入る。
が、しかし、

「……何このデザイン……」
「ん?」
「もうこれ……何これ……」

何と言っていいか解らずに、顔を顰める。
シンドバットはその様子に、気に入らないか?と首を傾げた。
気に入らない、というか、「これ、……ああ、そうだ。謝肉祭の時の踊り子さんの着る奴……」

そうだ、それがしっくりくる。
なまえはそう頷くと、改めてまじまじとその衣装を見た。
よくよく見れば、それと比べて布面積は多い気はするが、あくまで「心持」である。
どう見ても露出面積の方が多い。
なまえは溜息を吐くと、手に持った服とシンドバッドを交互に見て、もう一度溜息を吐いた。

「着ないのか?」
「何時着るんですかこれ」
「今とか」
「……」

さらりと言われた言葉に、なまえはじとり、とした目線を向けて少し後ろに下がった。
それに合わせてシンドバッドも一歩前に出る。

「着ないのか?」
「いや」
「着なさい」
「何で」
「娘の成長を見たいと思う親心だ」
「これ露出多い」
「ヤムライハを見てみろ」
「……シン」
「何だ?」
「変態」

相変わらず冷たい目をしたままぽつりと言えば、シンドバットはぴしり、と固まった。
しばらくの沈黙がおりる。
本当にこの人は何がしたいんだろうか。
こんな服、仕事着に出来る筈も無ければ私服にもならない。
装飾品も多くて、決して趣味が悪い訳ではないが、普段着として着るものではないだろう。
内心はあ、と溜息を吐いた。

「――あれ、なまえ?執務終わりましたよね」

不意にがちゃり、と沈黙を破る音が聞こえ、そちらを見るとジャーファルが首を傾げてこちらを覗いていた。
後ろにはマスルールもいる。
シンドバッドに持ってきたのか、数本の書簡をそれぞれ抱えている。

「ジャーファル達も終わり?」
「ええ」
「ご飯一緒に食べよー」
「いいですね。……で、シンはどうしたんですか?」

にこにこと笑うなまえの頭をジャーファルが撫でて、マスルールもそれに倣う。
そして固まったままのシンドバッドに怪訝な目を向けた。
まあ、恐らくなまえから何か言われたのだろうが。
声を掛けると、シンドバッドはかっとめを見開いて、悲しげな表情を作った。

「ジャーファルゥゥゥ!なまえが反抗期だ!!」
「ジャーファル、シンがセクハラかましてきます」
「……シン最低ですね」
「なんで?!」
「ちなみに具体的には何を?」

ジャーファルがマスルールの手でじゃれているなまえに振りかえって問えば、先程のやりとりを軽く説明する。
ついでに渡された衣装を見せれば、ジャーファルの顔が一気にひきつった。
書簡がばらばらと音を立てて床に落ちる。
そしてがっとシンドバッドの胸倉をつかむと、

「あんた何考えてんですか!」
「いや、俺は娘の成長をだな……」
「だからってあんなん着せようとするな!」
「似合うと思って……!」

がくがくとシンドバッドを揺さぶる始めたジャーファルに、長くなるかなぁ、となまえは内心呟いて、マスルールの手を引く。

「ん?」
「お腹すいた。……先に食べに行く?」

長くなりそうだし、と目の前の主従を指差して言えば、そうだな、と頷いて床に落ちてしまった書簡を拾う。
そしてそれを机の上に置くと、軽く声を掛けて(二人には聞こえて無かったが)部屋を後にした。


日常茶飯事ですので。
(「おいしー」「やる」「いいの?」「ああ」「マル好きー!」)
(「あんたは何でいっつもろくなことしないんですか!」「だってジャーファルばっか懐いてるじゃないか!」「じゃあ行いを改めなさい!」)



黒柴様からのキリリク「シンジャーマスでほのぼのぎゃぐ」です!
リクエストありがとうございます!
何だか最後マスルールオチみたいになってしまいました。
一番口数少ないのに(笑
そしてシリーズ夢主を可愛いと言って頂けたので、調子のってイメージはそちらで書いていますが、別に別の夢主としてみて頂いて大丈夫ですので!

家族みたいな感じの雰囲気を楽しんでいただけたら幸いです……!

何だかギャグにしてもほのぼのにしても中途半端になってしまった感じが否めませんが、少しでもくすりと笑って頂いて、少しでもほっこりした気持ちになっていただければ

、と念じながら書いていたので、そうなっていると嬉しいです(*^^*)

黒柴さん、リクエストありがとうございました!
もし書き直して!等の苦情がありましたらどうぞ!

お持ち帰りは黒柴様のみ可です。

20110824