だってもう、 毎日毎日白羊塔で一日を過ごす事が多い。 多い、と言うか食事と寝る時以外は大体そうだ。 元々の仕事量の多さもその理由の一端を担っているのは確かだが、何よりも、そこにいたいのだと思う私の意思が大半を占めている。 官服の袖をまくり、頬にインクを付けて、髪は走り回るうちにほつれてくるのでばっさりと切ってしまった。 もう殆ど女を捨てているんじゃないかと言う見た目をしているが、忙しさにかまけて自分を磨く事を怠けたりしない。 短くなってしまった髪には毎日きちんと櫛を通すし、うっすらとであるが化粧も施す。 飾りは邪魔になるので耳環を一つだけ。 不快にならない程度に控え目に、それでも甘い香りの香を見に纏う。 流石にいつも綺麗で完璧な姿でいる事は諦めたが、最低限それだけの嗜みは忘れない。 「おはようございますジャーファルさん!」 「おはようございます、なまえ。今日はこれとこれの纏めを――」 だって、好きな人には出来るだけ綺麗な自分でいたいから。 「ジャーファルさん。今日仕事終わったら一緒にお酒飲みに行きませんか?」 「それが終わったならこちらもお願いしますね。ちなみ仕事はまだありますから。今日中に終わればいいですね」 たとえそれが、 「ジャーファルさん!これ終わりました!」 「お疲れ様です。ではこの資料を黒秤塔から借りてきてください」 「いってきます!」 まったく見て貰えないとしても! ♭ 「えっと、これとこれとー……あっとはー……」 メモと探しだした資料を確認する。 これ位なら全部一気に持って行っても多分大丈夫だ。 最後の一冊を探す為に抱えていた本を一旦机に置いた。 そして本棚の間を縫う様にして残りの一冊を探す。 ふと痛くなる程首を持ち上げれば、その先に目当ての資料。 「……たっか……」 なんだあれ。 ムリだろ。 マスルール君辺りを設置すべき高さだよ。 一つ溜息を吐くと、仕方ない、とそばにあった脚立を引きずって設置する。 一応固定等を確認してから足を掛けた。 ぎしっと少し軋んだ音をたてたそれに、僅かに血が下がって思わず降りそうになる。 いやいやいや、これで取らなきゃジャーファルさんに資料を届けられないじゃないか! ぐっと手に力を入れてまた一つ、と足を上げた。 よーし後少しだ。一番上まで登ると、腕を伸ばして資料に指をかける。 棚から引き出すと、ほっと息を吐いた。 そこで気を抜いたのが行けなかったのだろう。 「――うあ?!」 ぐらり、と視界が揺れた。 落ちる! その瞬間にぐっと目を閉じた。 ――せめて受け身くらいまともに取れるようになっとくんだったっ! そう内心で叫びつつ、口からは驚きすぎて悲鳴すら出ない。 が、僅かにふわりと浮いた感覚におそるおそる目を開ける。 周りを確認するより早く、思ったよりも軽い音で着地した。 「ちょっと!大丈夫?!」 「……あ、ヤム……え?あれ?私、落ちたよね?」 「重力操作して浮かせたのよ」 びっくりさせないでよね、と溜息を吐いて私が落としてしまった資料を拾って渡してくれたヤムをぼんやり見ながら、漸く状況を察する。 そして今まで自分がいたのであろう脚立の上を見て、ぞっとした。 あそこから落ちたら多分暫く歩けなかった。 「うわぁ、ありがとうヤム……ヤムマジで女神」 「馬鹿な事言ってないでさっさと行きなさいよ……仕事溜まってるんでしょう?」 「あ、そうだった」 「他に探してる資料は無いの?」 「うん、これだけ。本当にありがとうね!今度何か奢るよ!」 そう言って集めた資料を両腕に抱えて白羊塔に向かう。 おおお思ったより時間使っちゃった……。 「只今戻りました!これ、言われてた資料です」 「ああ、御苦労さま――、なまえちょっと」 「?はい」 資料を机に置くと、ジャーファルさんが一段落したのか書いていた書簡から顔を上げた。 何だか久しぶりにちゃんと目が有った気がする! そんな少しの事で内心はしゃいでいると、ジャーファルさんは顔を顰めて私を呼んだ。 えええ何かしたかな……。 資料が間違ってたとか? いや、確認したし……。 不安になりながら傍によると、椅子に座る様に促される。 え、何、本当に何した私……。 大人しく椅子に座れば、ジャーファルさんは椅子から立ち上がって、そしてそのまま私の足もとに――、 「はあああ?!ちょ、ジャーファルさん?!」 「ちょっと静かにしてください」 「いや、え?!何してんですか?!寧ろ私上司を差し置いて椅子に座ってるとか……!」 「暴れるの止めなさい。上司命令です」「……はい」 ジャーファルさんがそう言うなら黙るしかない。 黙ったのを確認すると、ジャーファルさんは私の靴を脱がせて衣を足首の辺りまでめくり上げた。 えええええ何この状況!何これ羞恥プレイ?! 「ジャー、」 「ああ、ほらやっぱり腫れてる」 「へ?」 「足ですよ。ほら」 「い――ッ!」 ほら、と言いながらぐっと持った所を強く押されれば、全身が泡立つような痛みが走る。 じわり、と涙を浮かべながらジャーファルさんに持たれた足を見れば、うっすらと赤くなっていた。 落ちた時に捻ったのだろうか。 首を傾げていると、溜息が聞こえてそちらを見る。 ジャーファルさんの眉間に刻まれた皺が深い。 「――気付かなかったんですか?歩き方不自然でしたよ」 「……すみません」 「……別に謝らせたい訳ではないんです」 「でも、」 「先に手当てをしましょう」 私の言葉を遮って、ジャーファルさんは言った。 相変わらずその表情は険しいままで。 それはそうだろう。 貴重な時間を取らせてしまったのだ。 「――ッ」 「、なまえ?」 「すみま、せん」 「ちょ、何で泣くんですか?!」 「だ、って!迷惑かけて……」 「ああもう、別に怒ってる訳じゃないですから!」 「うう……」 情けない、情けない、情けない! 自分のミスで仕事を止めてしまってる事も、ジャーファルさんの手を煩わせている事も、今泣いている事も何もかも! ぐすん、と鼻をすすれば、頭上から聞こえる溜息。 思わずびくりっと体が震えた。 呆れられて当然だ。 そう思ったらますます涙がこぼれてくる。 駄目だ、嫌だ、嫌わないで――、 「……馬鹿ですね」 ぽん、と軽い音とともに、頭に暖かい手が乗る。 「怒ってる訳じゃないんです。 何時も頑張ってくれてますし、少し無理をさせすぎたこちらの責任でもあるんです。 足痛いのに、それに気付かないほど急いで持ってきてくれたんでしょう? 泣かないで下さい」 そう言って、顔を覗きこまれて涙をそっと拭われれば、もう、ほんとに、 「じゃ、じゃーふぁるさん……!」 「な、何で更に泣くんですか?!」 だってもう、溶けてしまいそう! (「なまえは暫く座って政務をしていてください。何かあったら呼ぶように」「え?!動けますよ!」「だめです!」) (目を離すと心配だから、何ていわないですけども!(察してください!)) ちひろ様からのキリリクで「ジャーファルにアタックしまくるヒロインとなかなか素直になれないジャーさん夢」です! リクエストに、添えてますでしょうか……? 何だか素直じゃないって言うのがあまり表現できてない感じがばしばしと……。 後言うほどアタックしてないですね! すみません! でも普段でれでれと言うか、御母さんな彼ばかり考えるので何だか新鮮でした(*^^*) まあこの話でも若干お母さんっぽいですが……(^^;) ちひろ様リクエストありがとうございます! 少しでも楽しんでいただけたら幸いです。 こんなの違う!書き直して!という苦情がありましたらどうぞ! お持ち帰りはちひろさんのみ可となります! 20110822 |