「本当に大丈夫か?」
「なにが」
制服姿で、大きなかばんを肩に掛け、眉村はドアの前で心配そうに振り返った。
今日から、一軍帯同組の眉村、市原、阿久津の三人は遠征に同行して二週間寮を空けることになっていた。
たくっ、俺はガキじゃねぇんだからそんなに心配する必要ないって。
なおも心配そうに眉を寄せているアイツに、俺はゆるく息を吐いた。
「大丈夫だつってんだろ? 早く行けよ」
「……」
じっと、俺を見たまま動こうとしない。
なんだよ? そんなに俺って信用ないってか?
それともまだなんか言いたい事でもあるのか?
相変わらず口数が少ないせいで、いまいち考えてることがわからない。
大体、何をそんなに心配することがあるんだよ?
よくわかんねぇな。
「行かねぇと遅刻するぞ。天下の眉村が遅刻じゃ、まずいだろ?」
「ああ」
低く呟いて、ノブに手を掛けた。
やっと行く気になったか。
そう思ってたら、またヤツは俺を振り返った。
「寂しくなったら、そこのネコを俺だと思えよ」
って、誰が寂しくなるかってんだよ!!
眉村のアホ!!
「大きな世話だっ!!」
俺がぶん投げた枕は、タイミングよく閉められたドアによって眉村にあたることは無かった。
くっそー。馬鹿にされたみたいで、かなりムカツク。
へっ、眉村みたいなエロオヤジがいなくなって、清々するっての。
誰が、ぬいぐるみの世話になんかなるかよ。
眉村の枕元に置いてある遊園地で取ったでかいネコのぬいぐるみを見て、むなしさがこみ上げる。
ぬいぐるみのクセに、目つきが悪いとこだけは、眉村に似てる。
時計を見ると、まだ六時前だ。
ふぁぁっ。朝っぱらからたたき起こされたから、眠い。
俺は、もう一眠りすることにした。
誰にも邪魔されない気楽な二週間の始まりだった。
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