戸惑う、薬師寺にいけしゃぁしゃぁと嘘を吐き、馴れ馴れしく身体を密着させる。
(おいぃぃぃっ! 渡嘉敷! ある事ない事、薬師寺に吹き込んでんじゃない!)
物凄い形相で睨みつける眉村のオーラに阿久津と市原は引いてしまった。
「お、おい。渡嘉敷……絶対やばいって」
「そうだぜ、眉村のヤツ、なんか怒ってんぞ!」
焦る二人に、薬師寺はきょとんとした顔で二人を見比べる。
「なぁ、お前らなんでそんなに怯えてんだ?」
「いいって気にしなくても、だって、眉村とは何にもないんだろ?」
そう言われ、薬師寺の心が一瞬ズキンと痛んだ。
(あれ? なんで、眉村との事言われてこんなに苦しくなるんだ? あいつとはただのルームメイトのはず)
ちらりと眉村に視線を向ければ眉間にしわを寄せてジッと見つめていて、さらに胸が痛んだ。
「薬師寺? おい、どうした? 顔色が悪いよ」
「あ、悪い。俺ちょっと部屋……戻るわ」
血の気が引いた表情のまま、渡嘉敷の腕を振り解いて、ゆっくりと自分の部屋に戻っていった。
「なんだぁ? 薬師寺のヤツ」
「おい! 渡嘉敷!」
去っていた方角を見つめていると、突然胸倉を掴まれて渡嘉敷は宙に浮くようなかたちになった。
「な……ッなにすんだよ! 眉村」
「薬師寺は俺のもんだ! 勝手に変な事吹き込むなっ!!」
「……っへぇ、そんな事公言しちゃっていいわけ?」
「五月蝿い! アイツは嫌がるから今まで何も言わなかったが……もう、我慢ならん! 今度、アイツに手ぇ出したら再起不能にしてやるから覚悟しとけ!」
いつも、必要以上に話さない彼が一気にまくし立てたので、その場にいた全員が眉村に集中した。
「そんなこといったって、薬師寺は記憶喪失だ。アイツが誰を選ぶかは、本人の勝手じゃん。もし、俺のことスキだって言ったらの方こそ眉村諦めろよな」
負けじと渡嘉敷も応戦し、二人の間に火花が見える。
「まぁ、いい。それは、考えといてやる。だが、俺はアイツが絶対俺のとこに戻ってくると信じてるから……」
フンッと鼻で笑い、眉村は、自分の部屋へとも戻っていった 。
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