一方その頃、薬師寺は自分のベッドに胡坐をかいて座り、うーんと胸の痛みについて考えていた。
(なんで、あんなに苦しくなるんだ?)
頭のもやが晴れそうで晴れずになんとなくイライラしている。
ちょうどその時眉村が戻ってきて、薬師寺はドキッとした。
「ちょっとお前に話ときたい事があるんだ。降りて来い」
「なんだよ」
「いいから、早く来い」
「わっ、アブねっ」
強い口調で言われ、しぶしぶ梯子を降りるとすごい勢いで抱きしめられて、思わずよろけそうになった。
文句を言おうとして、顔を上げると、目の前に眉村の唇があって、ドキッとなる。
「好きだ。お前に記憶がなくても、それでもいい。俺は、お前が好きなんだ」
鋭い目で見つめられて、それでも恐怖や動揺もなく自然と眉村の言葉が、頭のもやもやを晴らしてゆく。
瞳を閉じると、すぐに唇を塞がれた。
嫌だとか嫌悪感はなくて、あるのは懐かしさと心地よさ。
すこし触れては離れてゆく啄ばむような甘いキスを受けるごとに、少しずつ頭のもやがなくなってゆくのを感じていた。
「好きだ、歩」
「……っバカッ……恥ずかしい事、言ってんじゃねぇよ」
頬を真っ赤に染めて、ぷいっと横を向く彼に、眉村はハッとした。
「記憶……戻ったのか?」
「ああ。なんか、スッキリ頭のもやもやが取れたって感じだ」
「一体どうやって……?」
「……っ、教えねぇよっ」
不思議がる眉村に、まさかキスされて記憶が戻ったとは到底言えるはずもなく再び真っ赤になって俯く彼を眉村は静かに抱きしめた。
翌日、食堂へ行った薬師寺は吾郎から眉村の、
「薬師寺は俺のものだ宣言」を聞かされた。
「俺はテメェのモンじゃねぇぇぇ!!」
眉村に愛の蹴りが炸裂したのは言うまでもないだろう。
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