眉薬 他

LoveSick


「――――っ」

一体どのくらいの間眠っていたのか。

ふと、誰かに体を揺さぶられ気が付いた。

重たい瞼をこじ開けると、辺りはまだ薄暗く夜明けには程遠い時間帯だった。

「――おい!」

気を緩めると、直ぐにでも夢の世界へと舞い戻りそうなまどろみの中、今度ははっきり
と声がした。

「俺はまだ眠いんだから、もう少し寝かせろって」

「そうもいかないんだ。 頼むから起きてくれ」

切羽詰った様子のヤツの様子にただ事ではない何かを感じ、まだ眠気を残したままの体
を無理やり起こした。

「で? どうしたんだ?」

「…………」

眉村は、言いにくそうにモゴモゴと口篭り、何か言いかけてはキュッと唇を結ぶ。

妙にソワソワしているのが気になるが、その意図が全く読み取れない。

「なんだよ、一体?」

「じ、実は……ついてきて欲しいところがあるんだ」

「はぁ? こんな夜中に?」

一体、何処について来いと言うんだ。

訳がわからねぇまま、腕を引かれ部屋を出た。

「おい、あまりくっつくな。暑苦しい」

「すまん……」

薄暗い廊下は不気味なほどに静まり返り、足音だけが異様に大きく鳴り響く。

いつも平然と俺の前を歩いているはずの眉村は、今日は何故か俺の隣にいて腕にぎゅっ
としがみついている。

「お前もしかして……怖いのか?」

「……っ!」

俺の質問に答えは返って来なかった。

直後に立ち止まったその場所に、答えを見出したような気がして思わず失笑が洩れた。

「絶対に、そこから動くなよっ」

悲壮感を漂わせ念を押すその姿からは海堂のエースの威厳は何処にも無く、寧ろ可愛ら
しいとさえ思ってしまう。(本人は無愛想で可愛げが無いのだが)

それにしても――。

「高校生にもなって、夜のトイレいけませーんってか。 案外肝っ玉の小さいヤツなん
だ」

「五月蝿い! トイレの次郎さんに閉じ込められたらどうするんだっ!」

「は!?」

あまりにも真顔で言うものだから、思わず間の抜けた声が出ちまった。

「トイレの次郎さんって、お前まさか……」

寝てると思ってたのは演技で、実は聞いていたのか。

小学生騙しのあの程度で怖がるとは案外……。

「ガキなんだな、お前」

「五月蝿い」

ムスッと口をへの字に曲げて、拗ねてしまった眉村の、意外な一面を目の当たりにして
俺はほんの少しの優越感を覚えた。



/ススム




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