――が。
いざ聞いてみると、それは何処からどう聞いても「トイレの花子」さんと内容はほぼ変わりなく、俺達は笑いを堪えるのに必死だった。
「じ、じゃぁ……、次は僕の番だね」
コホンっと咳払いを一つして、次に名乗りを上げたのは、佐藤だった。
急に神妙な顔つきになるので、緩んでいた空気が一気に緊張する。
雰囲気を出すために用意した懐中電灯なんか必要ないほどおどろおどろしい佐藤の表情
に、その場にいた全員が凍りついた。
人から聞いた話なんだけど、と一言添えてから始まった怪談話。
「あれは今から五年ほど前……僕が中学二年の時の話だ――」
声のトーンを落とし、ゾッとするような低い声で囁く。
佐藤の作り出した空気は、蒸し暑かった体感温度を一気に下げた気がした。
みんなの表情からさっきまでの笑いは消え失せ、瞬きをすることさえも憚られるほどに
全身で佐藤の言葉に耳を傾ける。
話の内容は、何処にでもありそうな、海で学生が溺死したと言うベタな話だった。
それでもつい一言一句逃さないよう聞き入ってしまうのは、佐藤の話し方が上手いせい
もあるだろう。
「なぁ、もう止めようぜ。 夜も更けてきたし」
佐藤の話が一段落した後、そう切り出したのは茂野だった。
青白い顔をして口の端を引きつらせ、ブルッと身震いを一つ。
「え? もう止めちゃうのかい? まだ怪談話ならいくつか知ってるんだけど」
「いや! もう腹一杯。 暑さも吹っ飛んじまったから!」
物足りなさそうな佐藤を遮るように茂野がブンブンと首を振る。
それに俺達は激しく同意した。
これ以上聞かされたら、今度は逆に眠れなくなっちまう。
「んじゃ、とりあえず寝るか」
「そーだな」
まだ不満そうな佐藤を尻目に怪談話は終わりを告げ、俺達は宛がわれたそれぞれの布団
に潜り込んだ。
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