「おい、見ろよ。雪が……」
「ホワイトクリスマス、か。悪くない」
「そうだな」
同じように空を見つめ、肩を抱くと一瞬躊躇った様子を見せたがそっと凭れかかってきた。
しばらくはそのまま雪を眺めていたが、眉村がふっと笑みを洩らした。
「どうかしたか?」
「いや、もう一つのプレゼントを、貰ってなかったと思って」
「もう一つ?」
最初、何を言っているんだと言った顔をしていた薬師寺は、しばらく考えをめぐらせた後、「アッ」っと小さく呟いた。
「悪い。俺、クリスマスばかりに気をとられてて……」
「フッ、気にするな」
「でも」
恋人の誕生日を忘れてしまうなどと言う失態を犯してしまった事にすっかり落ち込んでしまった彼を見て、眉村はふぅっと息を吐いた。
「じゃぁ、代わりにキスしてくれ」
「えっ!?」
「それがプレゼントって事で勘弁してやる」
ニッと笑われ、言葉に詰まる。
「き、キスなんか、さっきやっただろうが!」
「お前からしてもらった事ないからな」
しばしの沈黙。
真っ直ぐに見つめられ、薬師寺は困惑した。
自分からキスをするなどという恥ずかしいことには勇気がいるもので時間ばかりが過ぎてゆく。
どうしたらいいものかと躊躇っていると、不意に近くの教会から鐘の音が響いてきた。
「聖夜に響く鐘の音はなかなか……っ!?」
眉村がその音に気をとられている隙に、薬師寺は頬に触れるだけの口付けをした。
「ち、ちゃんと、してやったからな!!」
真っ赤になってそっぽを向く彼を、微笑みながら抱きしめた。
「……ありがとう」
そっと頬に触れると、ゆっくりと深く口付ける。
二人を祝福するかのようにいつまでも鐘の音は鳴り響いていた。
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