「もしもし。お前、今何処だ」
相手がわかっているだけに、どうしても口調が怒っているようになってしまう。
(実際怒っているのだが)
一時間も待ちぼうけをくったのだ、怒らないほうがどうかしてるというものだろう。
ところが謝罪の言葉を述べると思っていた相手も、どうやらムッとしているらしい。
電話の向こうで深いため息が聞こえてきた。
『お前こそ何処に居るんだ?』
「はっ? 意味わかんねぇよ。それは俺の台詞だぜ」
ため息混じりにそう答えると、眉村はすっかり黙り込んでしまった。
「おいなんだよ、来れないなら来れないって連絡入れるのが筋ってもんだろ? 何時間待たせる気だよ」
『何を言ってるんだ、俺は時間どうりに来たぞ。全然姿を見せないのはお前のほうじゃないか』
いつに無く低めの声で言われ、さすがに何かおかしいと悟った薬師寺は待ち合わせ場所の確認をしてみることにした。
「ちなみに聞くが、お前何処に居るんだよ」
『駅の近くの像の前だ』
「……」
どうやら間違っては居ないらしい。
もしかしたら、グルッと回った反対側に居るのかも知れないと思い巨大な像の周りをグルッと一周してみた。
しかし、それらしき姿は見当たらず首を傾げる。
「もしかして、待ってる像が違うんじゃないのか?」
『はは、馬鹿を言うな。ちゃんと東口の像の前に居るぞ』
「東!? ちょっと待て! 俺、南口って言わなかったか?」
『……』
二人の間に長い沈黙が続く。
「は、ハハッ悪い。わかったよ、今から行くからそこに居ろよな」
互いに違う出口で待っていたという事実を知って、苦笑しながら彼の元へと足早に階段を駆け下りていく。
先ほどまでのイライラは無く勘違いして無駄に使った一時間に可笑しさがこみ上げてきた。
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