眉薬 他
LoveSick
諦めなくちゃいけない。
それは、わかってる。
わかってるけど、掴んだ腕を離したくない。
切なくて、苦しくて……どうしようもないくらい自分の感情がグチャグチャで久しぶりに泣きたい気分だった。
「悪いね。清水」
「悪いと思うんなら先輩、キスしてください。一度だけでいいです。最後に一度だけ……」
それで、諦めるから。
縋るように言った僕に先輩は小さく息をついた。
そして、両手で僕の頬を包み込むと、そっと優しく口付けた。
それは、ほんの数秒の出来事。
だけど、僕にはうんと長い時間に感じられた。
「じゃ、僕は行くから……」
そう言って、談話室を後にする先輩の後姿を、僕はただジッと見つめるだけ。
柔らかな唇の感触がいつまでも、僕の中で残っていた。
「おい、大河! なにやってんだよ茂野が待ってるぜ!」
「はいはい、今行きますよ」
切ない思いを胸に秘め、僕は茂野先輩の病室へと向かった。
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