「先輩、覚えていてくれたんっすね」
「薄々気が付いてはいたんだけど……今日ちょうど吾郎君から君の話を聞いてさ、久しぶりに話をしてみたくなったんだ。迷惑だった?」
病院の談話室でアイスを食べながら、先輩の声に耳を傾ける。
「め、迷惑なんかじゃないっす。全然! むしろ嬉しいくらいで……」
大げさなくらい首を振ると、先輩はクスッと笑った。
茂野先輩との話で僕を思い出したって言うのがほんの少し癪に障るけど、こうして二人っきりで話が出来るんだから、先輩には感謝しなくちゃ。
話をすればするほど、僕の先輩に対する気持ちがますます大きくなってゆく。
それと同時に、先輩の口から茂野先輩の名前が出るたびに嫌な気持ちになった。
伝えたいけど伝えられないもどかしい気持ち。
喉のすぐそこまで出掛かっている「好き」だという感情。
言えたら、きっと楽なんだろうけど。
「あ、僕そろそろ行かなくちゃ。ごめんね、清水。また今度ゆっくり会おう」
チラッと時計を気にして立ち上がった先輩。
僕の前から行ってしまう。
それが辛くて、思わず僕は先輩に後ろから腕を掴んだ。
「清水!?」
「行かないで、先輩。もう少し……ここにいてください」
搾り出すように言っては見たものの、先輩が困っているのは目に見えていた。
でも、僕は離れたくなくて。
「先輩、僕……先輩のことす……!」
「好き」という単語は最後まで続かなかった。
先輩が、僕の唇に指を一本押し当ててそれを阻止したから。
「ごめん清水……。それ以上は言わないほうがいい。僕は君の気持ちに応えてあげることは出来ないから」
まっすぐに拒絶の言葉を口にする先輩。
胸が張り裂けそうなほど苦しくなった。
「茂野……先輩がいるからっすか?」
「そうだよ。僕には吾郎君がいる。今の僕には彼しか頭にないんだ」
「っ!」
最初からわかっていたこと……なんだ。
わかりきっていたことなのに、実際に本人の口から聞かされると、なんだか余計に辛くなった。
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