僕の先輩への気持ちはあの日以来膨らむばかりで、寝ても醒めても思い出すのは最後に見た泣きそうな先輩の顔。
佐藤先輩は――茂野先輩の想い人だから、僕はこの気持ちに気が付いちゃいけなかったんだ。
頭ではわかってるんだけど、一度蘇った気持ちはそう簡単に忘れるはずもなくって、複雑な気持ちを抱えたまま、僕は野球部全員で先輩のお見舞いのため入院している病室を訪れた。
先輩の部屋へ着くと、丁度佐藤先輩が部屋から出てくるところだった。
思いがけない偶然の出会いに僕の鼓動は高まってゆく。
先輩は僕たちに気が付くとさわやかな笑顔を見せた。
この間のマウンドでは見ることの出来なかった佐藤先輩の笑顔。
僕だけに向けられていないと知っていても顔が自然と熱くなる。
「この間は、残念だったね。でも、それなりに楽しかったよ。吾郎君なら今寝てるからしばらく起こさないほうがいいと思う」
言って、去っていこうとする先輩。
すれ違いざまに、僕と目が合った。
「あ、そうだ清水……もしよかったら、少し話さないか?」
突然の先輩の言葉、思わずわが耳を疑ってしまった。
もう、僕のことなんか忘れてしまってると思ってたから。
あまりに嬉しすぎて、藤井先輩たちが病室へ入っていったのを確認し二つ返事でOKした。
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