(あーあ、始まったよ、だるいな)
説明を聞きながら、憂鬱そうに吾郎はため息をついた。
けれど、勝負と名の付くものはやはり勝ちたいと思うのが吾郎である。
対戦相手が寿也だということで、気分が引き気味だが、負けるわけには行かない。
一回戦が始まり、ついに吾郎の番が来た。
寿也に背中を向けて座り開始の合図を待つ。
「始めっ!」
開始の合図とともに吾郎は、寿也の道着を掴み自分のほうへ引き寄せると足を絡めて力いっぱい自分の下に組み敷いた。
「縦四方固めか、やるなぁ。茂野のヤツ」
どこかで感嘆の声が上がる。
ちなみに、縦四方固めという技は簡単に表現すると正常位のような格好の押さえ技である。
(よっしゃ、完璧に俺の勝ちだな)
先生のカウントを取る声が聞こえ、吾郎は余裕の笑みを零した。
「へっ! どうだよ、寿!」
下に組み敷いた寿也を見ると、負けかけているのに不敵な笑みを浮かべていて、吾郎はムッとした。
「なんだよ。悔しかったら抵抗してみろよ。まっ、完璧に押さえ込んでるから、抜け出すことは不可能だろうけどな」
「吾郎君って、寝技は沢山あるのに、いきなり正常位で攻めてくるんだから僕、驚いたよ。こんな大胆な格好して僕を誘惑するつもり?」
「ち、違う! 俺は、そういうつもりじゃ」
ニヤッと笑われ、吾郎は顔を真っ赤に染めながら、慌てて押さえつけていた腕を離した。
「隙あり」
その瞬間、寿也は自由になった上半身を起こし、あっという間に形勢を逆転させる。
周囲のギャラリィからは、「あーぁ」
と落胆の声が聞こえてくる。
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