やばい。ただでさえドキドキしてるのに意識させるようなこと言うから、今にも心臓が口から出ちまいそうなくらい緊張してる。
眉村の好きと、俺の気持ちが同じかなんて、そんなことはわからねぇ。
でも、ひとつだけはっきりしている事がある。
「急に、ンなこと言われてもわかんねぇ。――ただ」
「ただ?」
「俺は、好きでもねぇ奴とキスする趣味はねぇよ」
言ってしまって、思わず視線をそらす。自分が耳まで赤くなってしまったのが解った。
「それは、俺たちは両思いだということでいいのか?」
いちいち聞くな! そんな恥ずかしいこと。って、文句を言ってやろうと思ったらスゲェ嬉しそうな顔してるから、もう、何も言えなくなっちまった。
なんで、そんなに嬉しそうなんだよ。
いつもは表情が薄くて何考えてるのかわからないクセに。急にそんな面見せられると、調子が狂う。
「薬師寺、好きだ」
ぎゅっと強く抱きしめられて、耳元で告白を受け全身が緊張した。心臓が激しく脈打ってるのが眉村に伝わるんじゃないかと思うと気が気じゃない。
「わかったから、なんども言うな。恥ずかしすぎるだろうが!」
「言葉にしないと伝わらないだろう?」
「んなのは一度聞けば充分なんだよ!」
「お前からは言ってくれないのか?」
「……っ」
節のある大きな手のひらが頬を包こみそっと撫でる。視線が俺の唇へと注がれている。
「そのうち、気が向いたら言ってやる」
「なんだ、それは」
「うるせ! お前とキスすんのはイヤじゃねぇって言ってんだからそれで充分だろうがっ!」
恥ずかしすぎて、眉村の顔がまともに見れずシャツを掴んで引き寄せると、強引に唇を触れ合わせた。
「薬師寺……」
「もう何も言うんじゃねぇっ! ばかっ……んぅ……」
一度離れた唇をまた塞がれ、キスがどんどん深まっていく。
何処に置いていいのか分からずさまよっていた腕を背中に回せと合図され、そっと腕を回した。
「……眉、村……部屋替えの件はちゃんと監督に取り消してもらえよ?」
「……そうだな。お前が俺を満足させてくれたら……考えてやってもいい」
「はっ!? 意味わかんねぇ」
「体力には自信があるから一ラウンド三回は必須だ」
鼻をひくひくさせながら真面目な顔で、とんでもない事を口走る。
一度に三回って……それって……。
「俺のことが好きなら、そのくらい相手出来るだろう? お互い若いんだから」
「でっ、出来るかっ! アホっ!!!!」
静かな室内に俺の絶叫が木霊したのは言うまでもないだろう。
後日、こんなことなら引き止めずに部屋替えしてもらったほうが良かったんじゃないかと、俺は激しく後悔する羽目になる。
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