「俺、お前に何か嫌なことしたか?」
俺の問いに眉村は静かに首を振る。
「じゃぁ、なんでだ!? 理由を言えよ」
「……っ」
堪らず腕を掴み、振り向かせて顔をのぞき込んだ。
今まで一度も見たこともない苦しそうな、切なげな瞳とぶつかって思わずたじろいてしまう。
「な、なんだよ……」
「…………」
「眉……村?」
ずっと変わった奴だとは思っていたけど、今日の眉村はいつにも増して様子がおかしい。
何か言いたげに口を開いては、直ぐに閉じて眉を寄せる。切れ長の瞳はどこか切なそうで目が離せない。
長い長い沈黙の後、深い溜息を吐いて目を伏せ、眉村は小さく
「辛いんだ」
と、呟いた。
辛い? この部屋にいるのが? それって……。
俺と一緒にいたくないって事だよな。
面と向かって嫌いだと言われた事は無かったから、眉村の一言が胸に深く突き刺さる。
一緒にいたくないほど嫌われていたなんて!
一瞬目眩がして、ふらりとよろけてしまった。
「ハハッ、そうか……俺のことそんなに嫌いだったんだな」
「違うっ! そうじゃない!」
自嘲気味に呟いた言葉に珍しく眉村が声を張り上げる。
「違うって、嫌いじゃなかったらなんなんだよ! なんで、辛いんだ」
言葉が少なすぎて意味がわからない。一体何が辛いのか。部屋を変えたくなるくらいの辛さって……なんなんだ。
以前の俺なら、そうか。それは残念だったな。で済ませていたような話なのに、どうして俺はこんなに動揺しているんだろう。
まるで恋人に別れを告げられた時のような胸の痛みに戸惑いを覚える。
鼻の奥がツンとして目頭まで熱くなってるし。
「言ってくれなきゃ、わかんねぇよ……」
服を掴んでいる指先に力がこもる。縋り付くような体勢になってしまった俺を強い力が引き寄せる。
「え? あ? ……眉む……っ?」
戸惑うまもなく顎を掴まれ唇を塞がれた。目前に切れ長の瞳が見える。
「――っ」
俺、キスされてる。眉村の柔らかい唇が、俺の唇に確かに触れて……。
あまりに突然の事に驚いて声も出ない。それどころか体が硬直して、ドキドキして、指先まで震えて。
心臓が激しく脈打って、壊れてしまいそうだ。
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