「えっ、違いますよ! そんなんじゃないです!」
「じゃぁ一体……ん? お前、水着ってブーメランだったっけ?」
「は? 何言ってるんっすか。 俺がそんな恥ずかしい水着、履くわけないっしょ」
突然何を言い出すかと思えば……。
ブーメランパンツなんてブツに自信のあるナルシストしか履かないって。
俺がそう言おうとしたら、先輩は、
「だよなぁ、悪い! お前が何も履いてないように見えたから」
そう、笑って言った。
「!!」
水の上から光の屈折で見える自分の下肢に、慌てて俺は前を手で押さえた。
「まさか……そんなわけないでしょ。それじゃ変質者じゃないっすか」
「だよなぁ、ハハっかわいい顔して変質者だったら笑えるな」
何を想像したのかプッと吹き出す先輩に些かムッとしたものの、笑えるような状況じゃない俺は引きつり笑しか出来なかった。
「つーか、マジで何も履いてなかったりして?」
ニヤリッと笑うその顔に、ギクリとした。
水の中に居るにも係わらず、額から嫌な汗が流れ落ちる。
先輩の見透かすような瞳に耐え切れなくなって、俺はとうとう視線を逸らしてしまった。
みるみるうちに先輩の顔から笑顔が消え、マジな顔つきになってゆく。
「……マジかよ……」
「別に、好きでこうなったわけじゃ無いですから。 軽蔑するならすればいいじゃないですかっ」
「バーカ! それならそうと、早く言えばよかったじゃねぇか」
不意に腕をつかまれ、バランスを崩した俺はあれよあれよという間に先輩の腕の中へ。
「は、離してくださいっ!」
「たくっ、なんか変だと思ったら……。俺が遠泳言い出す前から、こうなる事わかってたんだろ?」
「……っ」
「ホント、馬鹿だよな、お前」
そう、呟きながらきつく抱きしめられる。
どうせ、俺は馬鹿だよ……。
言い返せない自分が、なんとなく悔しくてもどかしい。
「まぁ、なくなっちまったもんは仕方ねぇし、暗くなって人が少なくなってきた頃に陸に上がれば、何とかなるだろ」
「……すみません、先輩」
「なぁに、気にすんなって」
暢気に笑い、俺の背中をポンポンと叩く。
茂野先輩だけには、弱みを握られたくなかったのに。
こんなマヌケな姿、好きな人には絶対に見られたくない。
思わず目を背けたくなるような現実に深い溜息が洩れた。
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