「たくっ、遅れるなら連絡くらい……」
「つけられていたからな。まくのに苦労したんだ」
「!?」
車に乗り込むなり、物騒な言葉が飛び出しギョッとした。
「つけられたって、誰にだよ」
「決まってるだろう? マスコミにだ。今日はイブだからな、何かネタは無いかと粗探ししてる」
「はぁ? 有名人は辛いねぇ」
俺の嫌味には動じず、眉村は鼻でフンッと笑った。
「でも、別にほおっておけばいいじゃねぇか。ただの男友達に会うのなんて面白くもなんともねぇだろ」
どうせ、マスコミが期待してる相手は女子アナかなんかだ。
少なくとも俺じゃねぇ。
世間一般じゃ、男同士で過ごす寂しいクリスマスって感じだろう。
「お前が変に逃げるから、何かあるんじゃないかって食いついてくるんじゃないのか?」
俺の問いかけに、眉村はハッとした顔をする。
まさか気づいてなかったのか。
「眉村って隠し事下手だろう」
「さぁな」
すいっと肩を竦めて運転に集中する。
久し振りに見る横顔は、なんだかとても大人びて見えた。
眉村も佐藤もWBCの活躍で一気にスター選手の仲間入りだもんな。
そりゃ、彼女の一人や二人いるんじゃないかって目を付けられてもしかたねぇ。
「そんなに見つめられると穴が開きそうだな」
「なっ!? 別にお前を見てたわけじゃねぇっ! 自意識過剰だろっ」
指摘された事が恥ずかしくて、慌てて窓の外に視線を移す。
そんな俺の行動を見透かしたように眉村はフッと笑みを零した。
「何処か行きたいところは?」
スッと俺の手に眉村の手が触れる。
たったそれだけの事なのに、変に意識してしまって心臓がドクドクと早鐘を打ち始めた。
「今日はお前が誘ったんだろ? だったらお前が決めてくれ」
「そうか。じゃぁ、ホテルにでも行くか」
サラリと出て来た言葉に思わず耳を疑った。
「ホ、ホテルって、お前の頭の中ソレしかないのか!」
睨み付けてやると、何のことだとばかりに肩を竦める。
「ホテルでディナーでもと思ったんだが……何か気に入らないのか?」
「ディナー? ハハッいや……なんでもない」
自分の勘違いに気づき、顔から火が出そうになる。
そんな俺を可笑しそうに見つめ、「一体何を想像したんだ?」と尋ねてくる。
「何でもねぇよ! それより、俺たちディナーって柄じゃないだろ? 焼肉でいいよ」
「焼肉か……別に俺はお前の言うホテルでも全然かまわんが」
「〜〜っ、誰が行くか!」
運転中で無ければぶん殴ってやるところだ。
悔しくて俺に触れていた手を思いっきり抓ってやった。
「……っ、素直じゃないのはあいかわらずだな」
「五月蝿い!」
高校の時のノリそのままに、車は忘年会シーズンで賑わう繁華街へと入って行った。
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