「なんでお前らまでついてくる!?」
「えー、何でって俺らもたまには自主練しねぇとな。 薬師寺一緒にやろうぜ♪」
いつの間について来たのか阿久津が薬師寺の肩に手を置いた。
「え? 肩慣らしなら米倉とやればいいじゃねぇか」
「あー、あいつは今市原相手にしてて手が空いてないんだと。キャッチボールくらいいいだろ?」
全く、なれなれしいやつだ。
「おい、阿久津。薬師寺は俺と……「別にいいぜ」」
俺とキャッチボールするはず。
だったのにあろうことか薬師寺は阿久津の誘いをOKしやがった!
あいた口が塞がらないとはこう言う事だろうか。
俺の目の前で阿久津が緊張感の無い顔をニヤつかせガッツポーズをしている。
「んじゃ、行こうぜ♪」
思いっきりわざとらしく腰に腕を回しスタスタと何処かへ消えそうになる。
慌てて俺は阿久津達の後を追った。
途中で佐藤を見かけ、一人では怪しまれると思い、声を掛けた。
「なんで僕が眉村とキャッチボールなんかしなきゃいけないのさ」
「暇してるんだろ? 丁度いいじゃないか」
「暇って、僕だって色々と用事が……」
「いいから来い」
無理やり佐藤を連れて阿久津をピッタリマークする。
途中何度か薬師寺が俺の方を見て脱力しているようだったがそんな事はどうでもいい。
阿久津がおかしな気を起こさないか見張っていないと俺の気がすまない。
それにしても、くっつき過ぎだ!
「いたたっ、ちょっと眉村僕の腕を馬鹿力で握るのやめてくれないか」
「すまない」
無意識のうちに佐藤の腕を握り締めていて慌てて手を離した。
「全くさぁ、そんなに気になるなら部屋から出るなって言って聞かせとけばよかったじゃないか」
「言って聞くような奴なら俺だってこんな心配はしない。どうしても試合に出ると言ってきかないんだ」
「ふぅん……案外甘いんだ。眉村って」
「!?」
ボソリと呟いた佐藤の言葉が引っ掛かり思わず足を止めた。
甘い? 俺が? 薬師寺にか?
いや、そんなはずはない。
「甘いよ。甘過ぎて反吐が出るね。結局薬師寺の言いなりになってるじゃないか。吾郎君がもし女の子になったら僕は野放しになんて絶対にしないよ」
俺の判断が間違っていると言うように、佐藤はジッと阿久津と薬師寺の方に視線を向けながら言葉を続ける。
「他の男とああやって歩いてるなんて、とても平常心じゃいられない。僕なら間違いなくベッドに縛り付けてでも部屋から出さないけどね」
ベッドに縛り付けてでも閉じ込める。
そんな事考えもしなかった。
「そうか、その手があったのか! ありがとう佐藤」
「礼を言われるような事は何も言ってないよ。ついでに既成事実も作っちゃえば?」
「既成、事実……」
「そ、他の男に取られるくらいなら自分で奪っちゃいなよ。薬師寺が自分の子供身籠ったりしたらって考えるとワクワクしない?」
ニヤリと佐藤が笑い、悪魔の囁きが聞こえてくる。
薬師寺が俺の子を……。
そ、それは……。
「オイシイかもしれないな!」
「だろ? 早くしないと阿久津に取られちゃうかもね」
がんばりなよ。
なんて言いながら佐藤が俺の背中を押す。
後押しを受けて俺は思い切って薬師寺の腕を掴んだ。
「なんだ、なんか用か?」
「薬師寺! どうせ身籠るなら俺の子にしろ!」
「は?」
言っている意味がわからないのか怪訝そうな顔で眉を顰める。
「阿久津なんかより、絶対俺の方がいいに決まってる!」
「お前一体何の話をしてるんだ?」
「だから、誰かに阿久津に貞操を奪われるくらいなら俺が貰ってやるから可愛い子を産んでくれ!」
「なっ、ふざけるなっ! てめぇの頭の中にはソレしかないのか!!」
ドガッと強烈な蹴りが腹にモロにヒットして身体が崩れる。
「アハハ、綺麗に決まったね〜。馬鹿だなぁ眉村、一週間で子供が出来るわけないじゃん。アハハ!」
眩暈がしてよろけた視界の端で佐藤が笑っていた。
その日から元の姿に戻るまで、薬師寺は身の危険を感じるとか何かと言い訳を付けて、俺達の部屋には戻って来なかった。
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