だが、そんな俺の忠告を薬師寺は綺麗に無視して服を脱ぎ始めた。
「ブッ! お前いきなり何をっ」
「何って着替えるんだよ。寝巻のままじゃ練習にいけねぇだろ」
確かにそうだが……。
見慣れないモノが目前にあると目のやり場に困る。
「……こっち見るな! 馬鹿」
そんな俺の視線に気付いたのか薬師寺は慌てて背を向けた。
コイツ、本当にこのまま練習に行く気なのか。
危険すぎる。
こんな男子ばかりの野球部に突然薬師寺が入って行くなんて腹を空かせたオオカミの群れに羊が飛び込むようなものじゃないかっ。
複数の男に弄ばれる薬師寺の姿が一瞬頭を過る。
「鼻血、出てるぞ。一体何考えてんだ」
「……」
冷めた声と共にスッとティッシュが差し出される。
「薬師寺!」
「なんだよ」
「お前の貞操は俺が絶対守ってやる!」
「……っ! 怪しい事を言うなッ!!」
俺は至って真面目なつもりだったが、見事に平手打ちを食らい怯んだ隙に薬師寺は怒って行ってしまった。
そう言う所は女になっても変わらないらしい。
身支度を整えて食堂に行くと、薬師寺の周りには既に人だかりが出来ていた。
「薬師寺、案外可愛いね」
なんて佐藤の呑気な声が聞こえ、その周囲では好奇な目で見ている輩が数人。
阿久津に至ってはなんとかして近づこうとハイエナのように周囲を嗅ぎまわっている。
連中の好奇の目に薬師寺の姿を晒しているのが腹立たしく思え、俺は人込みをかき分けて薬師寺の腕を掴んだ。
「おい! 練習遅れるぞ」
「なんだよ、まだ時間あるだろ」
「いいから」
不満そうに訴える薬師寺の腕を引いて半ば強引に歩き出す。
本当なら練習にすら出したくない。
誰の目にも止まらない所に閉じ込めておかないと不安で仕方がない。
そんな俺の心配なんて微塵も気にしていない様子の薬師寺は渋々とついてきた。
ところが。
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