遠泳と言うのはかなりの体力を使う。
当然海の底に足なんて付かないから、泳ぎ続けるしかない。
水着を片方の手で握ったままの遊泳なんて到底無理なわけで……。
先輩はどんどん先へ泳いで行ってしまう。
水着から手を離さないと、俺はこのまま海の真ん中で溺れてしまう可能性だって出てきた。
海岸から数メートル行ったところで、俺はこの勝負を受けた事を激しく後悔していた。
「おーい、何やってんだよ、大丈夫か?」
当に孤島に上陸した先輩が、心配そうに手を振っている。
とりあえず無事だという事を知らせると、”早く来い”と手で合図してきた。
仕方ない。何とかなるだろう。
こんな所で波間を漂っていたら、それこそ体力の無駄遣いだ。
意を決して俺は、先輩の居る孤島に向かって泳ぎだした。
「おぉ、お疲れさん。途中でお前が止まっちまったから心配したぜ」
何とか足の届くところまで辿り着いた時、俺はもうへとへとだった。
波間を漂ったり、水着を掴んだまま泳いだりしたのが最大の原因だろう。
「つーかこの勝負、俺の勝ちだな。 何やってんだよ。早く上がって来いよ」
嬉しそうな先輩の表情。
今はそれが非常に恨めしい。
「俺はいいっす。このままで」
「はぁ!? なんでだよ。水の中にずっと居たら、帰りの体力もたねぇぞ?」
眉を顰めて、訝しげな表情を向けてくる。
俺だって、好きでずっと水の中に居るわけじゃない。
水の中に居なくちゃいけない理由があるから、こうしてるわけで……。
「大河? お前、今日変だぞ。どうかしたのか?」
「何でもないっす! 俺なら大丈夫だから。 ほらっ、暑いから水の中がきもちーなーって」
少しでも先輩に感づかれないよう、一定の距離を保つ。
途中で水着が流されたなんて、死んでも言えない。
「……?」
不思議に思った先輩が、じわりじわりと近づいてくる。
俺はそのたびに一歩一歩下がっていき、途中で大きな岩にぶつかった。
沖に出ればまた無駄な体力を使うだけだし、目の前には先輩が迫っているし……。
俺は絶体絶命だった。
「おい、一体どうしたんだよ。怪我でもしたか?」
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