確かに病気だ。
だが、そこまでするほど重症と言うわけでもない。
ただ、風邪で熱があるだけだ。
それなのに、食わせてくれと強請るコイツは本当にガキみたいだ。
「……今日だけだからなっ」
いつもの眉村らしからぬ行動に動揺して、仕方なくベッドサイドに腰を下ろす。
適当に切ったリンゴをフォークに刺して口元に持って行くと、眉村が満足そうに鼻をヒクヒクさせた。
部屋にはシャリシャリッと言うリンゴ特有の噛む音が響き静かな時間が流れてゆく。
「これ食ったら、薬飲めよ」
「……薬、嫌いなんだ」
「はぁ!?」
予想外の言葉に、思わず皿を落としそうになった。
薬嫌い?
天下の眉村が!?
冗談にしてはキツすぎる。
「薬のまねぇと治るもんも治らねぇぞ」
「わかってる。お前が飲ませてくれたら飲めるかもしれない」
ギュッと手を握られた。
しかも熱っぽく潤んだ瞳で俺を見つめてくる。
「……ちっ、仕方ねぇ。今日だけだからな」
「そうか、じゃぁ頼む。口移しで」
「は?」
皿をカップに持ち替えた途端、ニヤリと眉村の口角が上がる。
一瞬何か嫌な言葉が聞こえたような……。
咄嗟にその言葉の意味を理解しようと考えた。
口移しで……って……。
「ふっざけんな! そんな元気があるなら自分で飲め!!!」
チッ、心配して損したぜ。
こんなことなら、自主練習に行った方がマシだったな。
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