たくっ、急に言われると吃驚するじゃねぇか。
部室で着替えている間もあいつの言葉が耳に残って胸がドキドキする。
病人なんだから気が弱くなることがあるのはわかる。
だが、あいつの口からありがとうなんて言葉が出るなんて思ってなかったからその衝撃は大きい。
……それだけ、あいつは弱ってたって事か。
そう言えば飯は食ってるのか?
薬はちゃんと飲んでるのか?
熱は今どのくらい高いんだ。
水分は取ってるんだろうか。
汗かいてたらやっぱ着替えとか……。
「眉村が気になる?」
「!?」
俺のグルグル回ってる思考を断ち切ったのは佐藤だった。
「さっきからユニフォームのボタン同じとこ止めてる」
意味ありげに笑われて、改めて自分の手元に意識をむける。
確かに既に留ってるボタンを握り締めてる。
「五月蠅いっ。そんなんじゃねぇ」
今更、佐藤に言い訳しても通用しないことくらいわかってた。
だけど何か言わないと自分がみっともなくて恥ずかしい。
佐藤はすべてを見透かしたかのようにニヤリと笑みを浮かべ小さく「ふぅん」と呟いた。
「あ、そうそう。さっきトレーニングコーチから連絡があって、今日は自主練習でいいみたいだよ」
「そ、そうか……」
「気になるんだろ? こういう時ぐらい傍にいてやりなよ」
ポンっと佐藤が俺の尻を叩く。
「だから俺は別に――」
「心配で仕方ないって、顔に書いてあるよ。そんなんじゃ練習に身がはいらないんじゃない?」
「っ!」
やっぱり、佐藤には敵わねぇ。
周りに気づかれないように極力平静を装っていたつもりだったのに……。
「悪い。じゃぁ、少し様子見てくるから」
くるりと踵を返し部室を出る時に、佐藤が「全く素直じゃないんだから」と呟いたのは聞かなかったことにして、俺は急いで部屋に戻った。
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