面倒だった……。
眉村らしいと言えば眉村らしい理由だが、でもそれならそれで、問い詰めた時に言ってくれても良かったじゃないか。
「やましい事してねぇなら、最初からそう言えよ!」
「……お前が今にも喚き散らしそうな面してたからな。後で話そうかと思ってたんだ」
確かにあの時は頭に血が上っていて、まともに話なんか出来なかったかもしれない。
カッとなって、言わなくていい失言をしていたかも。
そう考えるとゾッとした。
「なんだよ、結局俺が一人で空回りしてたのか……情けねぇ」
誤解だったとわかった途端今まで張り詰めていた気持ちの糸がプツッと切れて、目頭が急に熱くなる。
「薬師寺……! お前……」
「見るな! バカッ!」
こんな情けないツラ、見せたくない。
とめどなく溢れてくる涙を手の甲で拭い、顔を背ける。
「悪かった。 こうなる前にきちんとお前には話しておくべきだったな」
急にふわりと抱きしめられて耳に熱い吐息がかかる。
自分はこんなに涙脆いはずは無いのに、声を聞いただけで涙が堰を切ったように溢れてくる。
「くそっ、カッコわりぃ。 全部お前の所為だからな!」
「俺の所為か……そう、だな」
眉村は、それ以上は何も言わずただ黙って俺が落ち着くまで抱きしめてくれる。
それが妙に気恥ずかしくて、眉村の腕の中で顔を上げる事が出来ずに時間だけが過ぎていく。
「少しは落ち着いたか?」
「……ぁあ」
俯いたままの俺を気遣うように、そっと優しく頬を撫でる。
顎を持ち上げられ、視線が交差する。
「珍しいものが見れたな」
それだけ言うと、眉村は満足そうな表情を浮かべ薄く笑う。
「うっせ!」
その視線に耐え切れずそっぽを向くと、不意におでこに柔らかい感触が当たった。
「!」
驚いて顔を上げた唇に今度は触れるだけのキス。
「俺は、ずっとお前だけだ。 他のものには興味ない」
真剣な熱い眼差し。
心地よく響く甘い声。
俺だけが知っている姿に熱いものが込上げてくる。
「俺だって……お前だけだ。 他のヤツなんか眼中にねぇし、興味もわかねぇ」
「……もう、変な嫉妬するな」
「ちっ、わかってるよ……」
互いに見つめあい、フッと笑みが零れる。
”愛してる”という代わりに、そっと瞳を閉じてゆっくりと口付けた。
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