「ハァハァ、こんな所に居たのか」
「……! なんだ。何しに来たんだよ」
突然、声を掛けられ俺は慌てて顔を背けた。
「忘れ物だ」
ふわりとコートを掛けられ、反射的に顔を上げる。
精悍な瞳と視線が絡み、ドキリっと胸が高鳴って慌てて視線を逸らした。
「わざわざ悪かったな。 つか、もう用は済んだんだろ? 早く戻って楽しんで来いよ」
自分でも信じられないくらいの冷たい声が出た。
感情のないその声に、眉村の肩がピクリと反応する。
「……ちょっと来い」
「は? なんだ突然……っ!?」
「いいから来い」
物凄い勢いで腕を掴まれ、躓きそうになりながらついていく。
「おい、何処に連れてく気だ!」
「……」
眉村は人気のない路地裏をズンズンと、進んでいく。
強く握られた腕が、軋んで痛みすら感じる。
「離せ! 一体なんなんだ」
文句を言うといきなり立ち止まり壁に押し付けられた。
「あのなぁ、俺怒ってんだ。退けよ!」
「奇遇だな。俺もだ」
「は!? 意味わかんねぇ! 何で俺がお前に怒られなきゃいけないんだよ!?」
「五月蝿い。キャンキャン喚くな」
「!?」
鋭い瞳に凄まれて、思わず二の句が継げなくなる。
怒っているのは俺だ。
コイツに怒られるような事をした覚えはない。
何に対して怒っているのか皆目検討もつかない。
俺が黙ったのを確認し眉村は短く息を吐く。
何で溜息を吐かれなきゃいけないのかと、なんだか泣きたい気分だ。
「なんで今日あの場に来たんだ」
「……眉村が来るって噂を聞いたから確かめに来たって、さっきも言ったはずだぜ? それがどうしたんだ」
「お前、俺が浮気してるんじゃないかと疑っていただろう」
真っ直ぐに見つめられ、グッと言葉に詰まる。
確かに俺は疑っていた。
と言うか、合コンに行く目的が他にあるとは考えにくい。
「俺が喜んであんな場に出向くとでも思ったのか?」
「思わねぇよ! 思わねぇけど、じゃぁなんであそこに居たんだよ! 用事があるって、言って俺の誘い断ってまで行く理由がわかんねぇ!」
「理由か? あまりにもチーム内の先輩たちがしつこいからな。 断り続けるのも面倒だったから、顔だけ出してただけだ」
いい迷惑だ、と言わんばかりの表情で肩を竦める。
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