今、なんつった!?
俺のことが好き!?
上目遣いで覗き込まれ、俺はギョッとした。
部屋の空気が、なんだかヤバイ感じになっていている。
「あっはっは、悪い冗談だな、それ。渡嘉敷……シャレになんねぇぞ」
「冗談じゃ、ないし」
グイッと顎を持ち上げられて、ヤバイって思った瞬間、唇を塞がれた。
「!!」
「っ!」
思いっきり絡んできた舌を噛んで、俺は慌ててベッドの端に移動する。
「何すんだ!!」
「何って、キスに決まってんじゃん」
口の端から僅かに血をにじませたまま、渡嘉敷は悪びれた様子も無く言い放つ。
って、何当たり前みたいな顔してんだよ!?
俺達、男同士だぞ?
俺はなんだか悪い夢でも見ているような気分で、半分パニックに陥っていた。
いつも、友達だと思っていたやつの豹変振りに驚きを隠せない。
身の危険を感じ、その辺にあったデカイぬいぐるみを盾にして、渡嘉敷から距離をとった。
ってゆーか、もう、出て行けよ。
キッと睨みを利かすと、渡嘉敷は肩を竦めた。
「ヤレヤレ、そんなに怒るなよ」
「怒るに決まってんだろ!!」
いきなりキスされて怒らないほうがおかしいって。
「わかったよ、悪かったな。俺、やっぱ帰るから。ここにいると、思わず襲っちゃいそうだし」
そう言って、さっさと部屋から出て行ってしまった。
って、襲うってなんだよ!?
俺がチビに襲われんのか?
まさか、アイツがそんなこと考えてたなんて。
あー、なんか人間不信になりそうだぜ。
でも、出て行ってくれて助かった。
一気に気が緩んだ俺は、ぬいぐるみを抱いたままベッドに倒れこんだ。
「おい、ピンチの時にはちゃーんと助けろよな。健」
物言わぬ、ぬいぐるみの鼻をちょんとつついて、ハッとした。
あわわっ俺、ぬいぐるみに話しかけてるし。
何やってんだ。
一気に虚しくなって、ため息が出た。
ひとつため息をつく毎に幸せが逃げていくって聞いたことあるけど、そうかもしれない。
なんだか急に切なくなった。
早く戻って来いよ。寂しいじゃねぇか。
認めたくないけど、やっぱり寂しい。
たった二週間のことなのに。
布団には眉村の残り香があって、さらに切なくなった。
その夜は、不覚にも眉村のベッドでぬいぐるみを抱き枕に俺は爆睡してしまった。
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