「薬師寺」
「俺、風呂行くから」
バンッと勢いよくドアを閉め、ズンズンと歩いてゆく。
(なんだよ! 普通、助けるだろ!!)
怒りを露にしたまま風呂場のドアを開け、タオルを掴んで浴室へ。
一番奥の開いているところで髪や身体を洗い、浴槽に浸かる。
まばらだった人も、全ていなくなり、ポツンと一人になった。
「眉村のバカ野郎!」
ブクブクと顔を半分くらい沈め、未だ治まらぬ怒りを浴槽の壁にぶつける。
「おい、壁が壊れる」
隣で声がして、振り向くといつの間に入ってきたのか、眉村がいた。
ツンッとそっぽを向き、距離を取ろうとして、腕を掴まれる。
「離せ」
「すまない。薬師寺」
肩をグイッと引き寄せられて、思わずドキッとしてしまう。
「な、なんだ。俺の事なんかどうでもいいんだろ」
「どうでもいいなんか、思っていない」
耳元で、低い声がする。
薬師寺の心臓はひとりでに暴走を始めているようで、ドキッドキッと強く打ち付ける。
「お前なら、あんな雑魚、一人でもなんとか交わせると思ってたから」
俺が悪かった。
そう言われ、今まできつく結んでいた口元が少し緩む。
「今度からは助けろよな」
「わかった。約束する」
ふっと目が合って、唇がすぐ側にあり、薬師寺はそっと瞳を閉じた。
前/ススム