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毎晩月を眺める。

夏の暑さがひと段落してからと言うもの、空気が澄んで一際輝いて見える。

「――なんだ、また空を見てるのか」

不意に声を掛けられた。

僕は振り向かずに空を見上げたまま静かに頷く。

「なんか面白いもんでもあるのか?」

「……」

大抵の先輩たちは僕の隣りにやってきて同じように月を見上げ、暫くすると首を傾げて行ってしまう。

「お前に天体観測の趣味があるとは思わなかった」

今日、隣りに来たのは岩井さん。

最近の試合が勝ちゲーム先行なのがよほど嬉しいのかビールを僕に差し出してきた。

「いえ、僕はまだ未成年ですから」

「真面目だなぁ、お前。 たまには息抜きしないと疲れちまうぞ?」

「みんなに同じ事言われます」

僕が答えると、岩井さんは小さく、

「そっか……」

と、呟いて窓に手を突いた。

サァッと冷たい秋風が心地よく僕らの頬を撫でてゆく。

「こんな動かない月を見て何が楽しいんだ?」

「月は……全世界共通だから」

「は?」

僕の言葉の意味がわからないのか、岩井さんは眉を顰め首を捻る。

わかるはず、ないよ。

誰も、高校卒業後単身で海を渡った吾郎君の存在なんか知らないんだから。

月は全世界共通だ。

多少の時差は仕方ないとして、きっと今頃吾郎君のいるアメリカも月明かりに照らされているに違いない。

今は世界中どこに居ても携帯が繋がる時代になったというのに、一向に電話が繋がる気配はない。

吾郎君らしいと言えばそれまでだけど……。



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