その日、ワッツの家は大騒ぎだった。
ニューイヤーイブだからとチームの仲間を招待し、ワイワイガヤガヤと盛り上がっていた。
「楽しんでいるか?」
日本とアメリカの新年の祝い方の違いに戸惑っているとキーンがワイン片手にやってきた。
「まぁ、ぼちぼちな。こっちではこうやってみんなで盛り上がるのが普通なのか?」
ワインを受け取り口に含みながら辺りを見回すとキーンは「まぁな」と肩を竦めた。
「アメリカで正月と言えば、イブと1日だけだ。親しい仲間を呼んで盛大にパーティを開くのが一般的だ」
「ふぅん。日本とはえらい違いだな」
「そうなのか?」
珍しく興味を示したので日本の正月について教えてやる事にした。
三社参りや正月は3日まである事色々な風習を話して聞かせると、感心したように感嘆の溜息を洩らす。
「来年はお前も日本に来いよ。話で聞くより体験してみた方が違いがよくわかる」
「いいのか?」
何気なく言った一言にキーンの目が光る。
「正月と言う特別な日に俺を連れて行って家族にはなんと説明するつもりだ。男の恋人なんか連れて行ったら両親が倒れないか?」
「なっ、馬鹿! 普通の友達って言えばなんとかなるだろっ」
「……なんだ、友達として、か。カミングアウトするわけじゃないんだな」
吾郎の返事を聞いて、キーンは残念そうに肩を竦めた。
「当たり前だっつーの! 正月にんな話持ち出したら母さん倒れちまう」
とんでもない修羅場を想像し、思わずぶるっと身震いをする。
もしそんな事をしたら、英毅から何を言われるかわかったもんじゃない。
そんな吾郎の反応を面白そうに眺め、キーンはフッと笑みを零した。
「冗談だ。そんな火に油を注ぐような事はしないから安心しろ」
ポンッと肩を叩き、オードブルを取りにいく。
「キーンが言うと冗談にきこえねぇから怖いんだよ」
そんな彼の後姿を目で追いながら、吾郎はグラスに残っていたワインを一気に飲み干した。
周囲では新年を祝うカウントが始まっており、みんなの気分も最高潮。
(新年を祝う瞬間は何処も同じだな)
吾郎は呑気にその様子を傍観していた。
そして――。
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