クリスマス 1154/154


毎年クリスマスの予定は空けるようにしていた。

特に約束をしていたわけじゃない。

だけど大抵、クリスマスには吾郎君がやってきてお互いにプレゼントを交換し合ったり、それなりに楽しく過ごしてきた。

今年は吾郎君はきっと来ないだろう。

だって彼には――彼女が出来てしまったから。

「僕もそろそろ、潮時かな」

寮の薄暗い部屋で無機質な天井を眺めながらポツリと呟く。

諦めなきゃいけない。

それはわかっていた。

いつかはこうなる日が来る。

もし、吾郎君に彼女ができたら僕は潔く普通の友達に戻ろう。

そう、覚悟はしていた筈なのに――。


いざ吾郎君の口から報告を受けた時、瞬時に頭の中が真っ白になってしまった。

約一年ぶりにアメリカから帰国してから数日後の事。

とりあえず、”おめでとう”なんて言ってはみたものの、本当は何か鈍器で殴られたような物凄い衝撃を受けていた。

あまりのショックで数日間は食事も喉を通らないほどだ。

僕らは付き合っていたわけじゃない。

曖昧な関係のままズルズルとここまで来てしまった。

「諦められるって、思ってたのに……」

ベッドに蹲り、膝を抱える。

あの日から、胸の苦しさは消えることはない。

今頃、清水さんと一緒なのかなぁとか、何処までの関係になったんだろうとかそんな下世話な想像をしては自己嫌悪に陥る。

こんな事なら、ちゃんと自分の気持ちを伝えておくべきだった。

割り切っていれば、いざと言う時友達に戻れる。 なんて、僕の考えが甘すぎたんだ。

もう自分の手の届かない場所へ行ってしまった彼を思うと胸を締め付けられる思いがする。

全然割り切れてなんかいなかった。

性別なんて関係ないって思えるほどに、吾郎君のことが好きで好きでたまらない。

後悔なんて、したくなかったのに。

行き場を失った気持ちだけが、僕の心に重く圧し掛かる。

切なくて、苦しくて……自分でもどうしていいのかわからない。

楽しかった二人の思い出が走馬灯のように甦り目頭が熱くなった。

「吾郎君……っ」

会いたい。

会いたくて仕方がない。

窓の外にはチラチラと白い雪。

聖なる日に相応しく、あたり一面うっすらと白い雪が積もり始めていた。

きっと今頃二人でこの雪を眺めたりしているんだろう。

そう思った矢先――。


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