漆黒の闇に浮かび上がる大輪の花――。 ドォーンと爆音を響かせ闇夜に散って行く。
儚いなかに風情を感じ周囲からは感嘆の溜め息が聞こえてくる。
そんな様子を俺達は、人の波から少し離れた場所で眺めていた。
「――綺麗だね」
スルッと腰に腕が回り静かに心地いい声が響く。
「そう、だな」
もたれていた体を起こし光のシャワーに目を向ける。
今にも火の粉がふりかかって来そうなほど一際大きく上がったそれに思わず目を見張った。
――今年は花火の出来がいいらしい。
花火大会が始まる直前、青色のはっぴにねじりはちまきしたオッサンが呟いて居たのをふと思い出した。
確かに、今夜は特に綺麗だ。
蒸し暑さを思わず忘れてしまいそうになる程に存在感を見せ付けられ気分の高揚を覚える。
でも……それ以上に胸がドキドキしているのは寿也が側に居るから、だろうな。
「ねぇ、キス……しよっか」
不意に囁かれたその言葉。
寿也の放つ一言一言が、俺の鼓動を早めてゆく。
つーか……、
「ここ、外なんだけど」
「うん、知ってる」
悪びれた様子もなく、にこりと笑う。
とんでもない事を言われていると言うのに、不覚にもその笑顔に目が眩みそうになった。
「あのなぁ、こんな誰が見てるかもわかんねぇ場所で、キ、キスなんか……」
「大丈夫さ。みんな花火に夢中で誰も見てないから」
もたれていた身体を更に引き寄せられ、寿也の長い指が俺の顎を捉える。
息がかかるくらい近くに顔があり、鼓動がうるせぇくらい早鐘を打ち始めた。
明るくなっては消えてゆく花火とともに少しずつ俺たちの距離も近づいてゆく。
「――好きだよ。吾郎君」
「……、言わなくてもわかってるつーの!」
「ふふ、ムードないの」
「うっせーっ」
こんな大勢の人が居る中じゃ、素直な気持なんか言えるわけねぇ。
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