「……吾郎君、それって生まれたばかりの赤ちゃんに送る時の事だよ」
「えっ!? そうなのか!?」
目を丸くして、心底驚いたような声を上げる。
「知らなかったの?」
「知ってたら買わねぇっての」
しばしの沈黙。
僕らは顔を見合わせて一斉に吹き出した。
「ぷっ、あははは……なんだよ俺、すっげぇ間抜け」
「ハハっでも、嬉しいよ。一生懸命選んでくれたんだろ? 大事にするから」
「おっ、じゃぁ明日からそれ使って飯食え!」
「えー、嫌だよ。飾っとく」
クスクス笑いながら視線が絡む。
笑いすぎて目じりに滲んだ涙を拭いてやると再び静寂が訪れた。
「ありがとう……。ほんとに大事にするから」
「あぁ、約束な」
ゆっくりと閉じられてゆく瞳。
繋いだ手から伝わる吾郎くんの気持ち。
嬉しくて、温かい。
唇を触れ合わせ甘い口付けを交わした。
「……そろそろ戻ろうか」
そっと唇を離すと、吾郎君はほんのりと頬を上気させ静かにコクリと頷いた。
肩を抱き、寄り添いながら歩く。
些細な事なんだけど、それだけで気持ちが満たされていくような、そんな気がする。
「このスプーンは、吾郎君が身ごもったら使わせてもらうよ」
「はぁっ!? んなのありえねーから」
「愛があれば出来るんじゃないか? 僕、頑張るし」
「これ以上頑張らなくていいっつーの!」
君さえ側に居てくれたら、僕は他に何も要らない。
一歩一歩幸せを噛み締めながら、寮への道をゆっくりとした足取りで戻っていった。
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