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大河が出て行った音で目が覚めた吾郎は慌てて飛び起きた。

目覚ましが止まっているためギョッとする。

部屋を出ようとして自分のパジャマの裾を踏みつけずっこけた。

「ってぇ……なんだよ。このパジャマ。ぶかぶかだぞ!? 寝る時はいつもどおりだったのに」

いつもより一回り小さくなった自分の身体をぺたぺたと触った。

どうも、目線もいつもより低い気がする。

(違う、こんなの俺の筋肉じゃねぇ!!)

バタバタとずり落ちてくるズボンの裾を持って、洗面台へ向かい、そして鏡を見て、絶句した。

(大河のヤロォ!! はっ、寿也が大河とデートなんて)

「んなの、ぜってぇダメだ!!」

大きな声を上げて、バタバタと二階へ戻り、大河の服に着替えて、そのまま慌てて家を飛び出した。

「……!? 清水君、一体どうしちゃったのかしら?」

桃子は不思議そうに去っていった大河(吾郎)の姿を見送った。



「あれ、今日は早かったんだね。吾郎君」

寿也は吾郎(大河)を見るなりにっこりと笑った。

大河は引きつり笑いを浮かべながら、寿也に近づいた。

「どうかした?」

「いやっ!? なんでもっ!」

大げさにぶんぶんと首を振ると、寿也は首をかしげる。

今日は一緒に映画を観る約束をしていたらしく、映画館へと入ってゆく。

寿也が一番後ろの席を選んだので、大河は不思議に思って尋ねた。

「こんなとこでいいんすか?」

「やだなぁ、吾郎君。そんなかしこまった言い方しないでよ」

(そうだった僕は今、茂野先輩だった)

焦る大河をよそに映画は始まり最初は集中してみていたがしばらくして、寿也が肩に触れてきて大河は身体を強張らせた。

(付き合ってんだよな、先輩って……これって拒否したらまずいんだよな!?)

固まって動けないでいると、頭に何かコツンと当たった。

(ん? なんだよ、これ!?)

紙切れが丸めてあって、それを開くとこう書かれていた。

『てめぇっ、俺の寿也といちゃつくんじゃねぇ! 早く離れろ!!』

キョロキョロと辺りを見回すと、隣の列で、吾郎(大河)がものすごい形相で睨みつけていた。

(いや、てゆうか僕の顔であんな顔されても……いちゃついてるつもりもないし)

大河は緩く息を吐いた。

まさか、寿也がこんなに積極的にスキンシップを計ってくるとは思っていなかったため、予想外の行動に戸惑いを隠せない。

今も、足の付け根をいやらしく這い回る手にどうしてよいものかと困惑していた。

(これってセクハラっすよ佐藤先輩!)

「今日の吾郎君、なんだか変だよ? 感じない?」

「へっ?」

(ま、まさか、佐藤先輩……映画見るためじゃなくって……こういう事したくて)

引きつり笑いを浮かべていると今度は寿也の頭にゴンッと何かが当たった。

「……痛たぁ!?」

それは、ジュースの空き缶で、寿也がキョロキョロ見回すが犯人を特定することが出来なかった。




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