「ん〜、やっぱこういうとこで食うたこ焼は、んまいな」
数分後、俺たちは少し屋台から離れたベンチに腰掛け、目の前を絶え間なく行き交う人の波をみつめていた。
茂野の手にはもちろん、さっきの店で購入したたこ焼のパックが握られており、仄かに鼻を擽るソースの香りに思わず腹が鳴った。
「眉村も食えよ」
「いや、俺は……」
「んだよ、付き合い悪いな。ぜってぇうまいから遠慮せずに食えっての!」
俺の態度が気に入らなかったのか、幾分むすっとしながら口元にたこ焼を差し出してくる。
こうなったら茂野は、てこでも動かない。
短い寮生活でそれを学んでいたから、仕方なく目の前のたこ焼を口に含んだ。
その際、唇が少しだけ茂野の指に当たってしまった。
俺は大して気にも留めなかったが、茂野が小さく、
「――ぁっ」
と、声をあげた。
当たった指をみつめるその頬が、ほんのり上気しているような気がして首を傾げる。
一体どうしたのかと思ってみていると、不意に茂野がその指を口元へ持ってゆき、自分の指にチュッと口付けた。
「!?」
「間接キス……、なんちゃって」
ハハっと後ろ頭を掻きながら、はにかみ笑いをする茂野にドクンと胸が高鳴る。
なんと言っていいのか困惑していると、視線が絡んだ。
微妙な距離を保ったまま数秒。
互いに動く事も視線を反らすことも出来ずに見つめ合う。
と、その時――。
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