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「だから笑うなと言っているだろう」

キーンの眉間のしわが一層深く刻まれていく。だけど、笑いのツボに入っちまったもんだから、そう簡単に笑いやむ事が出来なくて目じりに涙まで浮かんできた。

「悪い、悪い。あははははっ! 腹痛てぇっ。でも、ちょっと安心した」

「安心? なんの話だ?」

「なんでもねぇ」

キーンが真っ直ぐ家に帰る理由が、女じゃなくて本当に良かった。

「俺に話せないような事なのか?」

「え? 別にそんなんじゃねぇけど」

女が居るかもしれないと不安だったなんて、なんとなく言い辛い。

「ゴロー……」

肩を引き寄せられて耳元で息を吹きかけるように名前を呼ばれると、それだけで背筋を怪しい震えが走る。

「バカっ、耳元でしゃべんなよ」

「何を安心したのか教えろ」

「――っ」

顎にキーンの長い指がかかり、強制的に視線が絡んだ。

俺は、この全てを射抜くような鋭い視線がどうも苦手らしい。キーンに至近距離で見つめられたら、どうしていいのかわからなくなっちまう。

つか、誤魔化したって無駄って言うもんだけれども。

「お前があまりにも付き合い悪いから、女でも出来たんじゃないかって噂になってたんだよ。だから――」

「だからゴローも疑っていたのか?」

「べ、別に疑っちゃいないけどさ」

「疑ってはいないが、真意を確かめに来たのは事実なんだろう?」

それを言われてしまえば、何も反論する事が出来ない。


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