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キーンが溜息を吐きながらランドリールームの扉を開いた途端、黒い固まりが弾丸のような勢いで飛び出して来た。

「あ! こらっ、ココで大人しくしておけと言ったのに」

「!?」

慌てた様子でその黒い塊を追いかけるキーン。

「――ワン!」

「わん? って……うわっ!? 犬!?」

活きのいい声が部屋に響いたと思ったら、ソファに腰掛けていた俺に子犬が飛び付いて来る。

真っ黒くてクセの強そうな毛並みの犬だ。

「ゴロー、頼むからイイ子にしてくれ」

心底困ったような顔をして、キーンが俺から子犬を引き離す。

つーか、ゴローって。

「……どうしたんだよ、生き物飼うなんて珍しいじゃねぇか」

「拾ったんだ。……一カ月くらい前にマンションの駐車場の所で」

「へぇ。キーンにも人間らしいところがあったんだな」

コイツは捨て犬とか無視するヤツだと思ってたから、すげー意外。

「……俺も興味は無かったんだが、コイツの目が誰かさんに似ていたからな……ほっとけなかったんだ」

「誰かさん?」

「初めて連れて来た時は弱弱しくて、よたよたしていたクセに餌を食わせたら一カ月でこの有様だ」

リビングの中を尻尾を振りながら駆けずり回っている子犬を眺め、深い息を吐く。

「元気があっていいじゃねぇか。つか、どうでもいいけど勝手に人の名前付けるなよ」

「元気有り余り過ぎだ。しかも何故か俺の服ばかり玩具にするんだ」

手に負えないとばかりに眉間に手を当てて俺の隣に腰を降ろす。

キーン曰く俺に似てるからゴローって名前を付けたらしいが……どの辺が似てるのかさっぱりわからねぇ。

テーブルの上には、犬のしつけ方やら愛犬との接し方みたいなマニュアル本が何冊か並べられていて自然と口元に笑いが込み上げてきた。

「……笑うな」

「だ、だって……お前が犬一匹に振り回されてるかと思ったら可笑しくて……ぷっ、クククっ」

犬を追いかけて洋服片手に右往左往する姿なんて、普段見慣れないから余計に可笑しい。


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