「ほ、ほら。そいつメジャーリーガーだから! ツアーとか入ると大変なんだよ」
必死に言い訳を考えその場を取り繕うとする吾郎に、彼は「ふぅん……」と冷たい視線を投げかけた。
「と、とにかく。俺は今からそいつの迎えに行かなきゃなんねぇんだ! 悪いけど寿、今日の予定はキャンセルっつー事で」
「ぇえ!? なんだよ、それ。 今日は一緒にキャッチボールする予定だったじゃないか!」
わけのわからないアメリカ人からの電話で、自分と吾郎の楽しい時間を潰されては堪らないとばかりに、寿也から不満の声が上がる。
「しゃーねーだろ。 俺も突然すぎて何がなんだかわかんねぇんだから」
「……今から迎えに行くって、どうやって行くのさ」
「取り合えずタクシーっきゃねぇだろ」
「うっわ……、ココから成田まで!? 流石金持ち。言う事が違うね」
「なっ!? 金持ちとかそう言ういい方はねぇだろ!」
ムッとして睨み付けると、不気味な笑顔がその視線を安々と受け止める。
「僕、この間免許取ったんだ……」
「へ? あぁ、そういやそんな事言ってたな」
「僕が送って行ってあげるよ」
にっこりと笑われ、吾郎は慌てて首を振った。
「いいって、んなことしなくて!」
「どうして? ただのチームメートだろ。それとも、僕と会わせちゃまずい理由でもあるのかい?」
表情は笑顔だが、目は笑っておらず嫌な汗が吹き出てくる。
彼の背後に真っ黒なオーラが立ち上っているような気がして、堪らず息を呑んだ。
「僕も会ってみたいな。君のチームメートがどんなヤツなのか」
有無を言わさぬ迫力に負けて、吾郎はハァッと盛大な溜息をついた。
「わかったよ。 じゃぁ頼むわ」
「了解♪」
満面の笑みを零す寿也とは対照的に、吾郎はズーンと気分が沈んで行くのを感じた。
寿也とキーンが鉢合わせなど、蛇とマングースの対決に遭遇したかの如く恐ろしい。
空気も凍るような睨み合いを想像し、吾郎はブルッと身震いした。
不幸中の幸いだったのは、寿也がキーンの言葉を全て理解する事が出来ない(多分)と言うことだろうか。
重たい気分の吾郎を乗せて、寿也の車は成田空港へと出発した。
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