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「出来ない? 俺はお前が戻ってきた時、いきなりの呼び出しに応じてやった筈だがお前は出来ないと言うのか?」

「うっ……それは」

低い声が耳に響く。

この場に居ない筈なのに不思議と目の前で睨まれているようなそんな錯覚すら覚え背筋が伸びる。

「つーか、そう言うことは事前に言えっつーの!」

「……何度も電話を掛けたはずだが? お前、普段から電話持ち歩いてないだろう。 今朝も朝になるのを待ってわざわざ掛けてやったのにその言い草はなんだ」

「えっ!? マジ?」

確かに、携帯は殆んど飾りのようなものでカバンの中に仕舞いっぱなしだったりする。

よく、清水や寿也に何のために携帯を持っているんだとぼやかれていたりするのも事実だ。

「つーか、俺が今電話に出なかったらどうするつもりだったんだよ」

「そのときはその時だ。 日本の中なら時差を気にせず掛けられるからな。そのうち連絡も取れるだろう」

「ハハっ、なんつーアバウトな……」

「それしか連絡を取る方法が無いんだ。 それも仕方ない。 折角お前に会いに来てやったのに会えませんでしたじゃ、シャレにならんからな」

「マジで、俺に会いに来たのかよ……信じられねぇ。 そんなに俺に会いたかったのか?」

「あぁ」

「……っ!」

冗談めかしく言ったつもりが真面目に返されて、思わず言葉を失ってしまう。

自然と頬が紅潮し、鼓動が僅かに速くなる。

「お前の居ない生活は、つまらん。 お前が来れないなら俺がそっちに行ってやる。 家は何処だ?」

「い!? いいって! わかったよ成田まで迎えに行くから!」

家にまで来られては堪らないと、慌てて約束を取り付け電話を切る。

「――今の、誰?」

あまりの事に某然としていると、寝そべりながら不思議そうに見つめる寿也に声を掛けられドキッと心臓が跳ね上がる。

(やっべ、寿の存在忘れてた)

キーンと寿也が鉢合わせ……なんて事を考えただけでもゾッとして背筋が凍る思いがする。

なんと返事をしたらよいのか迷っていると寿也は何かを察したのかゆっくりと起き上がった。

「……」

「……」

重たい沈黙が吾郎の身体に圧し掛かる。

息をするのも苦しい空気に、何処から話していいものかと後ろ頭を掻いて思案した。

「さっき話してたの英語だよね? 成田がどうとか言ってなかった?」

「う……それは……」

目を細めてジッと見つめられその鋭い視線に思わず目が泳ぐ。

「アメリカに居るチームメイトがさ、日本に来てるらしいんだ。んで、観光したいんだけどよくわかんねぇから俺にガイドを頼みたいんだと」

「ふぅん。 でもなんで、吾郎君? 一人旅するにしても計画くらい立てるだろ。 それになんでツアーとかに参加しなかったんだい?」

鋭い彼の質問に、思わずグッと言葉に詰まる。

自分に会いたくて日本にやってきたなどと知ったら、寿也どうするだろう。

背筋に冷たい汗が流れる。



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