「あれ、吾郎君じゃないか」
「!?」
「なにやってるんだい? こんなとこで」
聞き覚えのある声に振り向くと、スポーツ用品店の袋を提げた寿也が立っていた。
「寿!俺は……ちょっとヤボ用でさ、お前こそ何やってるんだよ」
「僕? 僕は靴を買いに来たんだ。ちょうどすり減ってボロボロだったから」
「靴かよ……」
「?」
袋の中身を見せられ、吾郎はガックリと項垂れた。
何も知らない寿也は不思議そうにその様子を眺め首を傾げる。
「お前なぁ、なんで自分の誕生日に自分で靴買ってんだよ」
「誕生日? あぁ、そう言えばそうだったね」
「なんだよ、忘れてたってのか?」
呆れ半分に言った言葉に寿也はコクンと頷いた。
「だって、この歳にもなると自分の誕生日が来ても嬉しくないだろ。子供じゃないんだし」
「……なんだよ、せっかく祝ってやろうと思ってたのに……」
自分の予定していた事が尽く上手くいかずすっかり不貞腐れてしまった吾郎を見て、寿也の口から思わず失笑が洩れた。
「笑うなっつーの。たくっ、忘れてるんならわざわざ買いに来る必要無かったな〜」
「ゴメン。 でも、僕が欲しいものはちゃんと君に伝えたと思ってたんだけどな」
再びベンチに腰を降ろした吾郎の隣に座りさりげなく膝に腕を乗せる。
「あれは冗談だったんだろ?」
「僕が冗談言うと思う?」
ジッと顔を覗き込まれ言葉に詰まる。
自分が欲しいと言われても実際にどうしたらいいかなんてわからない。
「い、いつもしてるじゃねぇかっ」
「吾郎君から、誘って欲しいんだよ」
「っ!」
人通りのある通路でとんでもない言葉が飛び出して、吾郎は思わず赤面してしまった。 |