寿也の野郎。
女と話ばっかしてねぇで、こっち向けよ。
朝の事をまだ怒っているのかどうかわからねぇが、一向に振り向く気配すらない寿也。
時々聞こえる笑い声が、妙に勘に触る。
結局、一言も話す事のないまま放課後になっちまった。
「……帰らないのかい?」
誰もいなくなった教室で窓の外を眺めていると、後ろから声を掛けられた。
「帰りたかったら、先に帰ってていいぜ」
「……何怒ってるのさ」
「別に。怒ってんの寿也だろ?」
一日中女子に囲まれて愛想笑い浮かべやがって。
別に話しかけてくれんの待ってたわけじゃねぇけど、なんだかすっげぇムカつく。
「僕は怒ってなんかないよ。 一体どうしたんだい?」
「朝、怒ってたじゃねぇか。それっきり俺の方振り向こうともしねぇし……」
俺がそういうと寿也は「あっ!」という顔をして、申し訳なさそうに頭を掻いた。
「ゴメン。アレは怒ってたわけじゃないんだ。折角同じクラスになれたのに野球さえ出来ればどうでもいいみたいな言い方するから少し妬けちゃって……。吾郎くんが野球大好きなの知ってたのに、僕と一緒にいるより野球の方が大事だって言われた気がして……」
子供みたいだよね。
窓の外に視線を移し苦笑する寿也。
「寮に戻れば、一日中一緒じゃねぇか」
「そうだけど……学校の中に居る吾郎くんって見たこと無かったから。確かに学校が終われば一緒だけど、好きな人とはずっと一緒に居たいって思うのって普通の心理だろ」
フッと手が重なり、ドキリとする。
深いグリーンがかった瞳に見つめられ、吸い込まれるように目が離せなくなった。
「知りたかったんだよ、学校での君の事。僕は野球やってる君しか知らないから」
頬を撫でられ鼓動が段々早くなってゆく。
チュッと軽い水音が教室に響き、軽く触れ合うだけのキス。
慣れている筈なのに場所が違う所為かいつも以上にドキドキしてしまった。
「〜〜っ、こんなとこでいきなりすんなっ」
「誰も見てないよ」
「そういう問題じゃねぇっての!」
恥ずかしくて堪らないのに、寿也は面白そうにクスクス笑う。
「学校ってさ……確かに勉強は面倒だけどこういう事も出来るんだよ」
いつもと違うから興奮しない?
耳元で囁かれ身体がカァッと熱くなった。
「つか、寿也の頭ン中そんな事ばっか考えてんのな……」
「そりゃまぁ、僕も男だし」
そう言ってニッコリ笑う。
クラスの女子……ぜってぇ騙されてるよ。
「はぁ〜、お前に惚れてる女子が可哀想だぜ」
「ふふ、僕は君にしか興味無いし、折角一緒のクラスになったんだから楽しい一年にしよう」
グッと腰を引きよせられ、身体が密着する。
「お前の楽しいってこういう事言ってんのかよ」
妙に楽しそうに笑う寿也の態度に、俺は盛大な溜息をついた。
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