「……サンキュ」
毛布の暖かさは眉村のさりげない優しさだと思う。
ドキンドキンと高鳴る鼓動を抑えつつ、隣りに居る眉村をチラリと覗き見る。
「何やってんだよ?」
「……今夜、彗星が数万年に一度地球に再接近する日らしくてな」
双眼鏡を片手に空を見上げ、キョロキョロと辺りを探す。
「彗星って、流れ星の事か?」
俺がそう言うと、眉村は一瞬双眼鏡を外しクスッと笑った。
「流れ星とは違う。だが、滅多に見えないものだから見てて損はないだろう」
「ふぅん、じゃぁ願掛け出来ねぇじゃん」
「願掛け?」
俺の言葉に眉村は不思議そうに首を傾げる。
「星見るっつったら、願掛けに決まってるじゃねぇか」
ええっとなんだ、ほら流れ星が消える前に願い事を三回唱えると願いが叶うとかなんとかってやつ。
別にそう言う非科学的なものを信じてるわけじゃねぇけど……。
「お前がそんな少女的思考の持ち主だとは思わなかったな」
「おい! 誰が少女的思考の持ち主だっ! そんなの信じてねぇよ」
文句を言おうと睨み付けると、宥めるように頭をクシャッと撫で回す。
「わかったわかった。いいからコレを覗いてみろ」
ほら、と俺の手の平に双眼鏡が手渡され言われるがままにレンズを覗き込む。
「? なんも見えねぇぞ?」
どんなに目を凝らしてみても俺にはただの星が輝いてるだけにしか見えねぇ。
「何処を見ている。違う、こっちだ」
「!」
グイッと引き寄せられ毛布が背中からずり落ちる。
あっという間に眉村が背後に回り抱き締められるようにして俺の腕を持ち彗星が見える(であろう)位置まで身体を誘導してくれる。
「ほら、あそこ! 青緑色にぼやーっと光る星が見えるだろう?」
「え? あ……っ!」
指さす先には確かに、一際大きくて青白く輝いている星があった。
星とか空とかあんま興味ねぇ俺でも、思わず息を呑み魅入ってしまう。
「すげぇ……俺、こんな綺麗な星見た事ねぇよ」
ありきたりな感想を洩らした俺に「そうだろう?」と満足そうな笑みが返ってくる。
その笑顔に思わずときめいてしまった。
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