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その日は丁度皆どっかに出かけてて、家には俺一人だけ。

仕方なく取った受話器から聞こえてきたのは、眉村の声。

「久しぶりだな、茂野」

「な、なんで家の番号……っ」

「佐藤から聞いたんだ。久しぶりに声が聞きたくなってな」

あまりに突然の事で、手にはじっとりと汗を掻き、受話器に充てた耳が熱くなる。

「ははっ、嬉しい事言ってくれるじゃん、有名人」

「お前、今夜空いてるか?」

「別にいいけど、なんだよ。今話せばいいじゃねぇか」

「直接会って話がしたいんだ」

珍しい申し出に心臓がバクバクと激しく打ち付ける。

必死に平静を装いながら、思わず息を呑んだ。

眉村が俺に会いたい?

未だかつてそんな事一度だってなかったのに。

何かのドッキリじゃないのかと思わず疑ってしまう。

その後、何を話したのかはあまり記憶にねぇ。

あまりの出来事に緊張して、震える手で受話器を置くとズルズルとその場にしゃがみ込んだ。

夢、じゃねぇよな?

浮き足だった気持ちのまま、何度も頬を抓り夢ではない事を確認。

久々に会えるって思うだけで、落ち着かない気持ちになった。



待ち合わせは夜だったけど、結局待ちきれずに早めに家を出た。

外は木枯らしが吹いて、ほんの少し寒い位。

だけど、んなこと関係ない程俺は舞い上がっていたのかも知れない。

一番星が輝き始め、家路を急ぐ子供が一人、また一人と帰ってゆく。

吐く息も白くなり、ぼんやりと月が浮かび始めた頃、ようやく道の向こう側から誰かがやって来るのが見えた。

「すまん、遅くなった」

「別に構わねぇよ。有名人だから忙しいんだろう?」

俺の問いかけに、ほんの少し表情が和らいだだけだった。

それから場所を移動して、飯を食いながら色んな話をした。

眉村と面と向かってこんなに話したのは初めてじゃねぇかな。

俺は、始終ドキドキしっぱなしでそれが眉村に気付かれるんじゃねぇかって、そんな心配ばかりしていた。


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