「こいつが俺の好きな奴だ」
「なっ!?」
グイッと肩を引き寄せ顔を近づける。
その場の空気がピキッと凍りつき眉村達の思考はしばし停止していた。
「これでわかっただろ? 俺はお前らのどっちも選べねぇんだよ」
ショックを受けてる二人の様子を見て満足そうに引き寄せていた身体を離す。
「コイツが……」
「吾郎くんの好きな人……」
ワナワナと震える寿也たちを見て、事態を把握できていないキーンは不思議そうに首を傾げる。
「おい、あの二人どうしたんだ?」
「いいからいいから♪ サンキュ、キーン。お前が此処に居合わせてくれて助かったぜ」
「???」
わけが解らず怪訝な表情をするキーンの背中をポンポンと叩き、適当に挨拶を交わして別れた後、腹を押さえながら戻って来た吾郎は不気味なオーラを漂わせてユラリと近づいてきた寿也を見てヒッと息を呑んだ。
「……吾郎くん」
「わっ!? なんだよ寿、怖い顔して。腹減ったし三人で飯食おうぜ」
呑気に話す彼の腕を寿也はグッと掴んで微笑んだ。
「食事の前に、君にはさっきの男の話を詳しく聞かせて貰わなきゃね」
「――え?」
「そうだな。アイツとは何処までの関係なのか俺達には聞く義務がある」
「ぇえっ!? ちょっお前ら……っ何言ってんだよ」
両脇を抱えられ吾郎は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
「素直に全部吐かないと部屋から出さないから」
覚悟しときなよ。
そう言いながらにっこりと悪魔の微笑を見せる寿也の表情には有無を言わさぬ迫力がある。
(俺……もしかして火に油注いじまったかも)
後悔役に立たず。
後先考えずに口から出任せを言ってしまった事を激しく後悔するのだった。
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