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「ない、ない……なんで、ねぇんだよ!?」

何処を探しても携帯は見つからず、吾郎は呆然としながら記憶の断片を辿った。

確か出かける直前までは手に握っていたはずだ。

靴を履いていた所で電話があって……。

真吾が携帯を弄っていたから叱ったはずだ。

そしてその後時計を見たら約束の時間が迫っていて……。

ソコから吾郎の携帯に関する記憶は途絶えていた。

あとはもうただひたすら間に合うようにと必死に自転車を走らせてきたのだ。

多分携帯は実家に忘れて来たに違いない。


「はぁ、最悪」

今日はなにをやってもうまくいかない。

久々に会えると思っていた恋人は多分、怒って帰ってしまったに違いない。

家を出る前にとりあえず遅れると電話したほうがよかったのかもしれない。

いろいろなことを思い浮かべ、気分が一気に暗くなった。

「しゃぁねぇよな。帰るか」

携帯がないのでは、寿也に謝りの連絡を入れることさえ難しい。

帰ってしまった恋人がもう一度戻ってくる可能性などないに等しいと判断した吾郎は、ゆっくりと自転車を押してもと来た道を帰ろうとした。



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