「それは、本当か!?」
合宿も残り三日と差し迫ったある日、薬師寺にもたらされた朗報に眉村は飛び上がらんほど驚いた。
今日の試合、彼はホームラン二本を打つ大活躍で、その努力を買われて試合後監督から直接日本代表入りを言い渡されたのだ。
「……あぁ。でも、自分でもイマイチ実感がわかないんだ」
先ほど直接自分の耳で聞いた筈なのに、夢じゃないかと思ってしまう。
自分の実力はまだまだだと思っていただけに、眉村に報告した今でもふわふわと浮いたような気持ちでいるのだ。
「ギリギリで結果が出せてよかったじゃないか」
「そうだな」
はにかみながら照れくさそうに笑う薬師寺に、眉村はドキッとした。
ちらりとカレンダーに視線を向けると、明日はバレンタイン。
残念ながら、明日も試合でゆっくり二人っきりの時間を過ごすことも、チョコレートを買いにいくことも出来そうにない。
眉村は、ゆるく息を吐いた。
「じゃ、俺戻るから」
そう言って立ち上がる彼の腕を眉村は掴んで抱きしめた。
「な、なんだよ」
すぐ近くに眉村の顔があり、腕に抱かれているぬくもりを感じて薬師寺はドキドキしていた。
「もう少し、このまま……」
トクントクンと彼の鼓動を背中越しに感じ、心地よい感覚に身を委ねる。
きつい三白眼を緩め、抱きしめられた腕に自らの腕を絡ませる。
そのままの状態でベッドに座り、ゆったりとした時間を過ごす。
眉村は少しずつ自分の中で彼の存在が大きくなっていくのを実感していた。
最近は吾郎のことを思い出すことも少なくなりつつあった。
全ての練習が終わると、こうして彼と一緒の時間を過ごすことが多くなっているからかも知れない。
なにも会話をしなくてもこうして腕に彼を治めると不思議に安心できた。
人前でくっつくと、ものすごい形相で怒り逃げていってしまうが、なんだかんだで二人のときはこうやってくっついている事のほうが多い気がする。
「なぁ、いつまでこうやってる気だ?」
上目遣いで見上げられ、ドキッとした。
モドル/ススム