海堂編

LoveSick


日本代表と試合をする以上、やはりストレートだけではとても太刀打ちできない。

何かいい変化球を身につけて、寿也や京四郎達を驚かせたい。

その一心で吾郎はずっと練習を続けていた。

眉村に聞いてみようかとも思ったが、残念ながらあの日から避けられていて聞くことができないでいた。

頭を悩ませていると、そこに日本人メジャーリーガーの先駆者の野呂が現れて、フォークボールを教えてもらえることになった。

彼に指導してもらうこと一週間。

なんとかカタチにはなりつつあり、手ごたえも感じつつあった。

そして、若手選抜選手団が到着。吾郎もそれに合流した。

若手選抜チームには寿也をはじめ、薬師寺、亜久津、香取、唐沢など、一度は戦ったことのあるメンバーが勢ぞろいしていた。

みんなで、チーム練習を行った後、屋内ブルペンで寿也にフォークボールの練習をしてきたことを教え、翌日の実戦で使えるようにするために遅くまで練習を続けた。

「吾郎君、もう遅いしそろそろ戻ろう」

「それも、そうだな」

ひとしきり汗をかき、それをタオルで拭いながらホテルに戻る。その時、開いたエレベーターで偶然眉村と会ってしまった。

「よぉ、佐藤」

「久しぶりだね」

「あぁ」

「……」

チラリと眉村の視線が吾郎へと注がれ、ドキリとした。
が、直ぐに目を伏せて眉村はひっそりと息を吐いた。

エレベーター内に微妙な空気が漂い始める。

息をするのも苦しいほどで、居心地の悪さについそわそわしてしまう。


「おい、佐藤。お前のフロアに着いたぞ。降りないのか?」

「あ……」

寿也は降りようかと迷った。
このままエレベータで別れて部屋へ行くつもりだったのだが、なんとなく二人を同じエレベータの中に残すのは危険な感じがして、少し悩んだあと小さく首を振った。

「今から吾郎君の部屋に行こうと思ってたところだったから」

愛想笑いを向けると、眉村の眉間に僅かに皺が寄る。

「あれ? 部屋に戻るんじゃなかったのか」

「もう少し一緒に居たいんだ。いいだろう?」

「んぁ。別に俺は構わねぇけど……」

二人のやり取りを見ながら、眉村は胸のうちに苦いものが込み上げて来た。

寿也にわざと見せ付けられているとわかっている為、余計に腹立たしさが増して表情に出さないようにするのに必死だった。

それと同時に、自分の諦めの悪さにも少しうんざりしてしまう。

一刻も早くこの二人の側から離れたくて、フロアに着くなり眉村は足早に自分の部屋へと向かった。


モドル/ススム




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