海堂編

LoveSick


清水とライブへ行くために、家を出ようとしたときにちょうど英毅とすれ違った。

偶然耳に飛び込んできたワールドカップの言葉。

その時初めて英毅がワールドカップ代表チームの投手コーチ兼ヘッドコーチであることを知り、思わず英毅に詰め寄った。

なんで自分や寿也を推薦してくれないのか。

こうなってしまってはもう、頭の中はワールドカップの事でいっぱい。

清水との約束など何処かへ吹っ飛んでいってしまっていた。

代表入りの可能性は0じゃない。

そう英毅に言われた吾郎は喜び勇んでそのことを寿也に報告。

二人で選抜チームに名乗りを上げ、代表入りを狙おうと互いの気持ちを確認しあった。

意気揚々と自分の部屋から出てきた吾郎だったが桃子のひと言で、清水との約束を思い出した。

もう約束の時間をとうに過ぎていて、とてもライブには間に合いそうにもない。

気を使ったつもりで吾郎は薫にライブが観れなくなると悪いから一人で行って来いよ。と言って電話を切った。


翌日、聖秀に顔を見せた吾郎は久しぶりにグラウンドで大河と話をした。

初めは他愛のない話で盛り上がっていたが、ふと大河が昨日の事を持ち出して来た。

物凄く怒っていたと言う大河の言葉に驚きを隠せない吾郎。

[ま、そんな事だろうとは思ってましたよ。もうそろそろ、その浮かれた頭治して、まともな恋愛したほうがいいんじゃないっすか?」

「あんだよ、なにが言いたいんだよ」

馬鹿にしたような言い方がカンに障り、思わず眉間にしわが寄る。

「せっかく普通の恋愛が出来るチャンスなのに、いつまでも男の尻追っかけてないでもっと現実を見たほうがいいって言ってるんっすよ。まったく、姉貴もこんなガチホモ野郎のどこがいいんだか」

「はぁ? 清水がなんなんだよ、どうかしたのか?」

意味が分からずに首を傾げる。

そんな吾郎を見て大河は盛大な溜息を吐いた。

「ほんと鈍感。 佐藤さんはもう日本を代表する有名選手なんっすよ? あんたなんか何時までも相手してくれるわけないじゃないですか。そろそろ現実を見て目の前に転がってる恋愛と向き合ったほうが佐藤さんの為にもいいんじゃないっすか?」

「目の前に転がってる……? 何言ってんだよ大河。 寿也が有名になったからってアイツが変わるわけ……」

[本当にそうですか? 可愛い女の子に言い寄られたら佐藤さんでも心変わりするかもしれない」

それを言われてしまっては何も言い返す言葉が出てこない。

絶対に心変わりしないなんて確証は何処にもない。

揺れる吾郎の気持ちを見透かしたように大河は心の中でほくそ笑んだ。

(このまま先輩が姉貴とくっついてくれたら佐藤さんに付け入る隙も少しは出来る筈だ)

大河はまだ、寿也への想いを諦めたわけではなかったのだ。

少々姑息な方法かもしれないが、姉の恋を応援するという理由があれば自分の恋も少しは可能性が見出せるかも知れない。

[あんま鈍感だと愛想尽かされますよ。 先輩が姉貴と幼馴染以上の関係になる気がないんなら、それでもいいっすけどね」

それだけ言うと、大河は屋上を後にした。

「なんだぁ?アイツ何言ってんだ???」

清水はずっと側にいた幼馴染でそれ以上の感情なんて持ったことがない。

まともな恋愛といわれてもいまいちピンと来ずに、戸惑いながら吾郎はランニングがてら清水のいる女子大まで足を伸ばした。

そこで清水と出会い、昨日のことをきちんと説明しようとしてロッカー室で彼女の着替えを覗いてしまい、さらに彼女の口から本当の気持ちを聞かされた。


モドル/ススム




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