翌日練習試合を終えて、3塁側の更衣室から出ると、宿舎の前に沢山のダンボールが積まれていた。
「なんだ? これ」
「全国から送られてきたチョコレートみたいだよ。それぞれダンボールで小分けされてる」
一緒に歩いてきた寿也がダンボールの中身を覗きこみながら答える。
「やっぱり日本代表となると、来る量も半端じゃないよね」
チラリと京四朗と書かれたダンボールに目をやれば山済みされたチョコレートが溢れんばかりの勢いだった。
「ま、どうせ俺には関係ないな」
「そんな事ないと思うよ・・・。ほら、ソコに薬師寺の名前もあるし」
彼にそう言われ、指差すほうを見れば確かに薬師寺と書かれたダンボールがあった。
その隣には寿也のものもある。
近づいて、その中身の違いに思わず苦笑した。
「やっぱ、新人王と、只のルーキーじゃ大違いだな」
「それ、嫌味?」
「違うけど・・・それにしてもコレ送って来た女子は可愛そうだなぁ・・・・佐藤のシュミ知ったらぶっ倒れるぞ」
自分に送られてきたチョコを手にとってマジマジと眺めながら、横目で寿也を見ると彼はクスッと笑った。
「別に他人にどう思われようが、僕には関係ないよ。だって、僕は吾郎君しか興味ないから」
「よ、よく恥ずかしげもなくそんなこと言えるな」
平然と言い放つ寿也に少しひいてしまう。
「だって、事実だし。薬師寺だってそうだろ? やっぱり他人の目って気になる?」
「当たり前だろ? いくら好きだつっても、男同士なんて周囲に公言できるわけねぇし」
「でも、いえない関係って結構燃えるんだよね」
「も、燃えるってお前……」
(佐藤って、昔からこういうやつだったのか!?)
今まで、真面目で責任感が強いやつという薬師寺の持っていたイメージがガラガラと音を立てて崩れていくのを感じて苦笑した。
「でも、やっぱりバレンタインに会えなくて寂しいだろう?」
「僕は全然平気だよ」
寿也の予想外の言葉に彼は驚いた表情をした。
「平気って・・・意外に大人だな、佐藤」
「別に。そういうわけじゃないけど・・・ただ、僕には吾郎君のビデオがあるから♪」
「ビ、ビデオって・・・」
一体どんなビデオだよ!?
そう言わんばかりの形相の彼を見て寿也はクスクス笑う。
「ここにいる間の吾郎君の様子は全部隠し撮りしてあるから♪」
「か、隠し撮り!?」
引きつった顔を見せる薬師寺に、寿也は「見たい?」と聞いてみた。
「はぁっ!? い、いや・・・遠慮しておく」
素っ頓狂な声を上げ、首をぶるぶると振る。
隠し撮りなんてきっと見てはいけないものが写っているに違いない。
そう思った。
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