(なにやってんだよ、俺)
戻りのエレベーターの中、薬師寺は壁に手をついて自己嫌悪に陥っていた。
好きなのだから拒む必要はない筈なのに、現実に引き戻されて彼を突っぱねてしまった。
(絶対、怒ってるよな。眉村……)
はぁっと重く息をつくと丁度ドアが開いた。エレベータを降りて自分の部屋のキーを差し込んだとき、丁度寿也がひょっこりと顔を覗かせた。
「やぁ。さっき、監督から聞いたよ。おめでとう」
「あぁ」
にこやかに話しかけてくる寿也に、薬師寺は適当に相槌を打った。
嬉しかったのはさっきまでで、今は彼を拒んでしまったことで頭がいっぱいだった。
返事もそこそこに部屋に入ると、ベッドに倒れ込む。枕に顔を埋め、深いため息が洩れた。
(遅かれ早かれいずれはそういう関係になるんだよな。……イマイチ想像できねぇ)
自分が男の下に組みしかれる様子など想像しただけでも身の毛がよだつ。
(かといって、俺が眉村を……なんてこと考えたくもねぇし)
恐ろしいことが一瞬頭をよぎりぶるぶるとその妄想を振り払った。
キスは何度もした。それは嫌じゃないしどちらかと言えば好きだ。
だが、それから先は未知の世界で好奇心より恐怖の方が先にたつ。
あんな状況になって拒んでしまった自分が情けない。
ふと顔を上げ、壁掛けのカレンダーが目に付いた。
明日はバレンタイン、あさってになればこの合宿もおわりアジア予選まではお互いに別行動になる。
(チョコやるなんて柄じゃねぇが……)
期待させるだけさせておいてあんな態度を取ってしまったのだ。気まずいまま別れたくない。
(一応、買ってやるか)
思い立ったら即行動。薬師寺は上着を掴むと近くのコンビに向かう。
棚には沢山のチョコが所狭しと並べられていて薬師寺は一瞬ためらってしまう。。
(いかにもバレンタインってのは……止めとこう)
色々悩んで、結局ポッキーを購入。チョコレートを渡してやろうと意気込んでみたものの、レジに持っていく勇気のない自分自身がなんとなく可笑しかった。
他にも色んなお菓子や飲み物を買い込んで部屋に戻った。
「勢いで買ったのはいいが……どうするかな、コレ」
ぽりぽりと頬をかきながら、ベッドの横に置いた袋に視線を送る。
(ま、明日になればなんとかなるだろ)
今考えていても仕方がないとばかりに、肩をすくめベッドに寝そべった。
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